むなしきオリンピック
「フクシマ事故と東京オリンピック」小出裕章著
コロナ禍であっさり延期と決まった東京オリンピック。この空虚さを一体どうすればいいのか。
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「3・11」福島第1原発事故の際、最も厳しい反原発論者として広く知られた著者。京大原子炉実験所で「最下層」の万年助教(助手)として定年まで勤めた。あれから9年。原発事故の影響はいまなお続く。しかし大手マスコミはもう目もくれず、新型ウイルス禍の直前まで“五輪翼賛”に努めていた。
本書はそんな世間の空気に逆らって放たれた渾身の抗議の書だ。東京五輪に反対するイタリア在住の日本女性が著者に執筆を依頼し、英訳して世界各国のオリンピック委員会とマスコミに送付したものを衝撃的な写真コラージュとともに単行本化した。
「今日生きている人間の誰1人としてチェルノブイリ事故の収束を見ることはできない。ましてやフクシマ事故の収束など」と著者は言う。火を噴くような言葉。「1年間に20ミリシーベルトという被曝量は、かつて私がそうであった『放射線業務従事者』に対して国が初めて許した被曝の限度である。それを被曝からは何の利益も受けない人々に許すこと自体、許しがたい。(略)そんな人たちにまで、放射線業務従事者の基準を当てはめるなど、決してしてはならないことである」
いまも「原子力非常事態宣言」の下にある日本が、原発事故などなかったような顔でオリンピックなど開催していいのか。本書は鋭く問いかけるのである。
(径書房 1600円+税)
「五輪スタジアム」岡田功著
過去のオリンピックで新設された世界各地のスタジアム。それらを訪ね歩き、「祭りの後」に施設がどうなったのか、その成功例と失敗例をルポするというユニークなテーマの新書だ。
オイルショックとテロ対策に追われた1976年のカナダ・モントリオール五輪は1069億円、現在ではおそらく1兆円超という赤字を出したという。これなど新型コロナウイルスショックのあおりを食った「東京2020」の近未来のようではないか。
国家の威信をかけた2008年北京五輪の「鳥の巣」スタジアムは、なんと運営を担当する共同事業体が、わずか1年後に運営権を返上。これも想定外の巨額費に苦しんだ揚げ句らしい。国内では有名な観光地らしいが、今回のウイルス禍でこれもボツ。やはり東京五輪の未来は暗い……。
(集英社 840円+税)
「1964」泉麻人著
懐かしの昭和雑学といえば、この人。テレビのコメントでは亜流がいろいろ出てきたが、いくつになってもトッチャン坊やの雰囲気を残す著者のノスタルジーコラムはやはり最高だ。
「前の」東京五輪の年、著者は小学2年生。しかし本書は、その前の紅白歌合戦の話から始まる。渥美清が聖火ランナーに扮して日比谷通りを走り、当時の紅白の会場だった東京宝塚劇場に入ってくるところから番組は始まったという。
さらに、書名のとおり64年にまつわるトリビア雑学のオンパレードで、当時を知る世代なら抱腹絶倒請け合いだろう。テレビで「チロリン村とくるみの木」が終わり、「平凡パンチ」はまだ創刊されていない64年。五輪が流れたいま、郷愁にからむ哀愁はなおさら深い。
(三賢社 1500円+税)