移民とニッポン
「同僚は外国人。」細井聡著
新型コロナウイルス禍で内向き志向が強まるニッポン。人口減少がある限り移民は避けられないのに、政府はあくまで否定的だ。
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浅草で行政書士事務所を主宰する著者は、外国人の在留資格取得や日本での起業支援を手掛ける現場のベテラン。本書はその経験を踏まえた実用書だが、単なる解説本ではない。
まず注目は著者の略歴。大手電機メーカーの営業職に始まり、音楽業界に転職して海外アーティストのプロデュースや招聘を手掛けたあと、東電福島原発のコールセンターで賠償業務に従事。そこで法律の重要性に目覚め、50歳すぎで行政書士資格を取得し、事務所を開いたというバイタリティーの持ち主なのだ。外国人労働者との縁はバブル時代に自販機の整備を請け負う町工場を経営していたときから。その後、入管法の改正で「不法滞在者」が続出する一方、日系人の労働者が激増。さらに安価な労働力の不足で悪名高い技能実習制度が発足する。
そんな過程をつぶさに知る著者だからこそ、現場の目線でつづる外国人労働者の実態にも説得力がある。「技術・人文知識・国際業務」(通称「技人国」)の在留資格をめぐるエピソードなど実例も豊富。制度の実際や運用上の注意、問題点などもよくわかる。外国人と話すときの日本語の使い方の注意なども的確。結論として「外国人が普通に上司になる日は、すぐそこ」。永住より帰化をうながす制度のほうがいいともいう。「オールジャパン」などと口先だけで外国人の進出を阻むようでは日本の社会に未来はない。
(CCCメディアハウス1600円+税)
「移民と日本社会」永吉希久子著
最近、外国から来た研修生や技能実習生が置かれた劣悪な労働環境は知られるようになってきた。だが、待遇を改善すると外国人が押し寄せ、地方の零細企業などは仕事を奪われて倒産が相次ぐ、といった反論がある。偏見まじりの知識不足を危惧した著者は移民研究を専門とする社会学者。
この分野に多いインタビューなどの質的分析ではなく、統計を用いた計量分析を駆使し、マクロな観点から検証。欧米人が英語など当たり前の能力を「専門的能力」と認定されやすいのに、中南米やアジア、アフリカの出身者は母国での資格や技能、学歴などをカウントされず、ブルーカラーに転換して就労することが多くなる。しかし、それは日本社会にとっても損失になるのだ。
人道論に走らない冷静な視点が光る。
(中央公論新社 900円+税)
「レイシズム」ルース・ベネディクト著 阿部大樹訳
移民問題は人種問題でもある。
本書は「人種差別」についての古典。著者はあの「菊と刀」を書いたアメリカの人類学者だ。もとは太平洋戦争下で「敵国日本を知る」ためのプロパガンダ研究の一環。人種をもとにした発想がいかに無根拠かを論じている。
たとえ北欧でも全員が金髪、青い目の長身とは限らないし、文化は特定の民族に占有されるわけではない。西洋文明といわれているものを旧石器時代から現代まで受け継いだのは多数の民族であって、現代のヨーロッパ人とは限らないのだ。
嫌中嫌韓など現在の排外主義の状況を憂えた30歳の若き精神科医が改めて取り組んだのが今回の新訳だ。
(講談社 920円+税)