「博士の愛したジミな昆虫」金子修治・鈴木紀之・安田弘法編著
東京都が休業要請のステップ2に移行するに当たり「ウィズ・コロナ」宣言を発した。この言葉については賛否あるが、要はコロナとの「共生」を図ろうということだろう。現実の生物界においては、絶妙ともいえる工夫が凝らされ、生死を懸けた複雑な関係をつくりながら共生し、「生物多様性」を維持している。
本書は、テントウムシ、モンシロチョウ、ゾウムシ、アブラムシなど身のまわりにたくさんいる「ジミ」な虫たちに魅せられた10人の昆虫博士たちが、虫たちの生態を平易に語ったもので、「共生」の具体的なありさまが見えてくる。
たとえばナミテントウとクリサキテントウは見た目がよく似たテントウムシだが、どちらもアブラムシを餌とする。ナミテントウはさまざまな木のアブラムシを餌とするが、クリサキテントウは松の木にしか生息せず、当然その数も少ない。この「すみわけ」はどうして起きたのかといえば、ナミのオスがクリサキのメスにちょっかいを出すため、クリサキの子孫を残すためにはナミのいない場所を選ばざるを得なかったのだ。
またある種のアリはオオバギという植物の茎内にカイガラムシという虫を飼っていてそれを餌とするのだが、茎を破るほどカイガラムシを増やすことはなく、応分の量にとどめるという環境への配慮をしつつ共生している。一方のオオバギの方も、伐採されると残った根の茎から新芽を出してアリに住居を提供し始めるという。
そうした興味深い虫たちの謎と共に、本書には昆虫学者たちのユニークな実験法が具体的に語られている。コナガがキャベツの葉を食すと、キャベツから特殊な匂いが発されコナガの天敵のハチを誘引する。つまりキャベツは食べられながらも敵の敵を誘い出して自らの身の安全を図っているのだ。それがどのようなメカニズムかを解明するにはまずコナガを採集し、次にハチがコナガに食べられたキャベツとそうでないもののどちらを選ぶかを観察し……。ムシに憑かれた博士たちの研究に対する熱い思いが伝わってくる。 <狸>
(岩波書店 880円+税)