「キーウの月」ジャンニ・ロダーリ作 ベアトリーチェ・アレマーニャ絵 内田洋子訳

公開日: 更新日:

 ロシアによるウクライナ侵攻から半年、いまだに終わりは見えず、戦いは激化する一方だ。こうしている間にも毎日、兵士や民間人を問わず、多くの死者が出ている。そして死者の数以上の遺族が日々、生まれている。

 まるで20世紀に逆戻りしたかのような惨事に目を覆いたくなるが、テレビやSNS上に飛び交う映像は、まさに今、起きていることなのだ。これまで人類は何をしてきたのだろうか。この戦争を止めるために、私たちには何ができるのだろうか。

 紹介するのは、不条理な戦争に引きずり込まれたウクライナを救援するためにイタリアで緊急出版された作品の日本語版。世界中で翻訳出版され、売り上げによる利益はすべてウクライナ支援に寄付されるという。

 その内容は、イタリアの児童文学の巨匠であるジャンニ・ロダーリ氏(1980年没)が生前に残した1編の詩に、氏を「精神的な父親のような存在」と敬う同国出身の人気イラストレーターが絵を描き下ろした絵本だ。

 詩は、ウクライナの首都キーウの夜空に浮かぶ月を思い描き、それは「ローマの月のようにきれいなのかな」「ローマの月と同じ月なのかな」「それとも妹なのかな……」と想像をめぐらす。

 月は、「わたしはいつもわたしです!」と答える。

 そう日本の夜空に浮かぶ月も、キーウの夜空に浮かぶ月も同じ月。

 わずか15行の詩と添えられた絵が、読者の心を時間や距離を超え、キーウ、そしてウクライナ各地で空襲警報や爆撃音に怯えながら日々をやり過ごす人々の元へかけつけ、寄り添ってくれる。

 コロナや元首相の国葬など、日々のニュースは移ろっていくが、同じ空の下で、今日も恐怖を押し殺し、息をひそめて生きている人たちがいることを決して忘れないことの大切さを改めて思う。

(講談社 1320円)

【連載】発掘おもしろ図鑑

最新のBOOKS記事

日刊ゲンダイDIGITALを読もう!

  • アクセスランキング

  • 週間

  1. 1

    高市政権の物価高対策「自治体が自由に使える=丸投げ」に大ブーイング…ネットでも「おこめ券はいらない!」

  2. 2

    円安地獄で青天井の物価高…もう怪しくなってきた高市経済政策の薄っぺら

  3. 3

    現行保険証の「来年3月まで使用延長」がマイナ混乱に拍車…周知不足の怠慢行政

  4. 4

    ドジャース大谷翔平が目指すは「来季60本15勝」…オフの肉体改造へスタジアム施設をフル活用

  5. 5

    実は失言じゃなかった? 「おじいさんにトドメ」発言のtimelesz篠塚大輝に集まった意外な賛辞

  1. 6

    佐々木朗希がドジャース狙うCY賞左腕スクーバルの「交換要員」になる可能性…1年で見切りつけられそうな裏側

  2. 7

    【武道館】で開催されたザ・タイガース解散コンサートを見に来た加橋かつみ

  3. 8

    “第二のガーシー”高岡蒼佑が次に矛先を向けかねない “宮崎あおいじゃない”女優の顔ぶれ

  4. 9

    二階俊博氏は引退、公明党も連立離脱…日中緊張でも高市政権に“パイプ役”不在の危うさ

  5. 10

    菊池風磨率いるtimeleszにはすでに亀裂か…“容姿イジリ”が早速炎上でファンに弁明