「民具のデザイン図鑑」 武蔵野美術大学民俗資料室 編加藤幸治監修
武蔵野美術大学の民俗資料室には、同大の教員だった民俗学者の宮本常一と学生たちが全国を巡り収集した民具を中心に9万点もの収蔵品があり、貴重な資料として公開、活用されているという。
宮本氏は生前、その時々の民衆の暮らしの必要から生み出された民具について、「見た目はごく雑なように見えながら、ある緻密なものを持っている」「使う人たちの体力なり、あるいは能力なりに応じて作られていっておる。(中略)造形の原点というのはそこにあったのではなかろうか」と述べている。
本書は、民具を素材や機能、形態、意味という観点から見直し、そこにデザインのヒントを探す図鑑。
身近な素材で作られる民具は、身に着けるものには機能性や心地よさが備えられ、手に持つものには行為を誘発する形状が与えられた。
「かたちと身体性」の章では、素材の特性を理解し工夫した創造の痕跡を探す。
まず、注目するのは雨具の「蓑」。森の中では、雨が降っても木々の枝葉が折り重なって直接濡れない。蓑はスゲの葉や藁、シュロの皮などを幾重にも編み込んで作った「小さな森」で身を包むという発想だ。
日よけや泥よけにも使われ、雨にも日照りにも負けず労働しなければならない農耕社会の宿命を象徴する「勤勉なデザイン」だという。
他にも陶器で作られた「湯湯婆」や「尿瓶」に見る「優しさのデザイン」、作られた土地によって素材もデザインも異なる「箕」(主に脱穀した穀物を選別するための農具)を見比べながら「道具の進化の痕跡」をたどる。
無名の庶民によって作られ、人々の暮らしを支えた民具164点の中にデザインの素を見いだす。
(誠文堂新光社 2420円)