「木々と見る夢」菅原貴徳著

公開日: 更新日:

 放課後に魚を捕りに行った水辺で見かけたカワセミ、春の森にやって来たキビタキの姿や声の美しさなど、幼いころから鳥に魅了されてきたという写真家が、国内外で撮影した鳥の写真集。

 ノルウェーで撮影された表紙のキョクアジサシは、最も長い距離を移動する渡り鳥の一種。南極圏から北極圏への旅を終え、満を持してのプロポーズをとらえたものだ。

 ほかにも、ブルーとモスグリーンのグラデーションにレースのショールをまとったような羽毛に包まれ、鈴のような飾り羽がある喉を震わせ美しく啼くエリマキミツスイ(ニュージーランド)をはじめ、ダークグレーの羽毛に深紅のクチバシ、その根元には差し色となる黄色と、白いひげ状の羽が伸びるインカアジサシ(ペルー)や、クチバシの周りの模様が唇を連想させ、つい人間のような表情を見せるシロカツオドリ(ドイツ)、エメラルドグリーンの小さな羽が一枚一枚折り重なり、美しく輝く宝石のようなアオミミハチドリ(コスタリカ)など、門外漢でも初めてお目にかかる鳥たちの魅力に一目ぼれしてしまうことだろう。

 熱帯のマングローブでスコールに打たれ、途方に暮れたような顔でカメラを構える著者に同意を求めているかのように見えるクロハラアジサシ(フィリピン)など、何とも表情豊かな写真もあるが、著者はできるだけ気配を消して鳥たちの自然な姿を撮影することに腐心しているという。

 著者自身が写真を撮ることよりも、鳥たちが自然の中でどのような暮らしをしているのかを知りたいという好奇心と興味が勝るからだという。

 取材はまず世界各地の野鳥図鑑を開き、まだ見ぬ鳥への憧れを募らせることから始まる。

 その中から特に心引かれる種類をピックアップして生息環境や生態、観察に適した時季などの情報を収集して旅程を組む。現地ではガイドらには頼らず、フィールドをできるかぎり1人で歩き回り、鳥を見つけ出すプロセスを大切にしているという。

 巣に近づきすぎたオオハシウミガラスを空中で攻撃するミツユビカモメ(ノルウェー)の勇敢な姿や、ワタスゲの咲く草原を駆けまわりながら親に餌をねだるクロトウゾクカモメのヒナ(ノルウェー領スバルバル諸島)、朝の日が差し込む森の中でたたずむ世界で最も希少なカワセミの一種、ニアウショウビン(フランス領ポリネシア)など。

 そうした地道な撮影行から生まれた自然の中で暮らす鳥たちのありのままの姿をとらえた作品が、この地球上の生き物たちの多様性の豊かさに改めて気づかせてくれる。

 もちろん、氏の原点のひとつとなった新緑の林に現れたキビタキ(長野県)や、飛翔しながら羽毛についた水滴を振り払うユリカモメ(北海道)など、日本の各地で撮影された身近な鳥たちの写真もある。

 愛好家はもちろん、これまで鳥にさほど興味がなかった人をも鳥好きの仲間入りにしてしまうような写真集だ。

 (青菁社 2420円)

【連載】GRAPHIC

最新のBOOKS記事

日刊ゲンダイDIGITALを読もう!

  • アクセスランキング

  • 週間

  1. 1

    元小結・臥牙丸さんは5年前に引退しすっかりスリムに…故国ジョージアにタイヤを輸出する事業を始めていた

  2. 2

    「自公過半数割れ」後の大政局…反石破勢力は「高市早苗首班」で参政党との連立も

  3. 3

    自民旧安倍派「歩くヘイト」杉田水脈氏は参院選落選危機…なりふり構わぬ超ドブ板選挙を展開中

  4. 4

    「時代に挑んだ男」加納典明(25)中学2年で初体験、行為を終えて感じたのは腹立ちと嫌悪だった

  5. 5

    巨人無残な50億円大補強で“天国から地獄”の阿部監督…負けにお決まり「しょうがない」にファン我慢限界

  1. 6

    世良公則、ラサール石井…知名度だけでは難しいタレント候補の現実

  2. 7

    狩野舞子は“ジャニーズのガーシー”か? WEST.中間淳太の熱愛発覚で露呈したすさまじい嫌われぶり

  3. 8

    WEST.中間淳太がジャンボリお姉さんとの熱愛謝罪で火に油…ディズニー関連の仕事全滅の恐れも

  4. 9

    巨人・田中将大「巨大不良債権化」という現実…阿部監督の“ちぐはぐ指令”に二軍首脳陣から大ヒンシュク

  5. 10

    元大関・栃ノ心が故国ジョージアの妻と離婚し日本人と再婚! 1男誕生も明かす