「五島列島」山本一著
NHK朝の連続テレビ小説「舞いあがれ!」の舞台のひとつとなり、注目が集まる五島列島。その風景に魅せられ、20年前から足しげく通う風景写真家による写真集。
長崎本土と向き合うように大小152の島々が浮かぶ五島列島は、福江島、久賀島、奈留島、若松島、中通島の5島のほかに18島に人が暮らし、大半は無人島だ。
そこには、これまで撮影のために訪れたどの土地とも異なる五島だけの景色があると著者はいう。
ページを開けば、たちまちにそんな特別な風景が広がる五島へと連れて行ってくれる。
巻頭に選ばれたのは、ドラマでも重要な場所として登場する福江島の「大瀬埼灯台」(写真①)だ。島々の海岸線の多くは、火山によって作り出された複雑で変化に富み、灯台も断崖絶壁の岬に立つ。深い藍色の海と、陽光を反射して白く輝く灯台のコントラストが鮮やかだ。
対照的に、同じ福江島の「高浜ビーチ」や若松島の「筒ノ浦」は静かな海と広い浜のおだやかな景観だ。
他にも、沖合に岩とも小島ともいえる岩礁が並ぶ港の夕景や、凪いだ海の上に浮かぶ島々が重なり、山脈のように見える風景など、海の風景は飽きることがないさまざまな表情を見せてくれる。
そんな海の風景の一つに、海を臨む場所に建てられた墓所がある。墓碑の上には十字架が掲げられている。
ご存じのように、五島は禁教時代を耐え忍んだ潜伏キリシタンの人々が多く暮らした地でもある。
平成30年に世界文化遺産に登録された「長崎と天草地方の潜伏キリシタン関連施設」の構成資産である最古の木造教会「旧五輪教会」(久賀島)をはじめ、「頭ケ島天主堂」(頭ケ島)や、「水ノ浦教会」(写真②)など、信者たちによって守り続けられてきた教会の写真もある。
それらの教会建築は、西洋文化と日本の匠の技が融合した独特のフォルムが特徴だ。
かと思えば立派な堀と石垣を備えた江戸時代の武家屋敷も残っている。
他にも、中通島の奈良尾神社の御神木となっている「アコウ」(写真③)の巨木、その名とは対照的に全面が芝に覆われた島民の憩いの場となっている福江島のシンボルの火山「鬼岳」などの名所をはじめ、おだやかな入り江を望む一帯を絨毯のように埋め尽くすピンク色の花、海へと続く谷に作られた棚田、そして見渡すばかりの菜の花畑や、港で出番を待つ大量の蛸壺や、子どもたちの成長を願うこいのぼりと鮮やかな幟など。島の自然とともにある人々の営みの一端がうかがえる写真もあり、五島のさまざまな魅力を伝える。
五島ならではの景色や、島民たちによって紡がれてきた独自の歴史と文化が感じられ、読者の旅心をくすぐる一冊となるに違いない。
(求龍堂 2750円)