「世界の美しい城」フィリス・G・ジェスティス著 パリジェン聖絵訳
絵に描いたようなロマンチックな城をはじめ、古城や要塞、砦など、世界各地に今も残る美しい城を収めた豪華写真集。
城は、領地の防衛や支配の拠点となる基地として、青銅器時代にはすでに築かれていたという。周辺一帯を支配する貴族の権力と名声の象徴であり、防衛の必要がなくなっても、貴族は住まいとして城を築いた。
それぞれの地域の歴史が刻まれたさまざまな城を、古代から近現代まで築城された時代別にめぐる。
古代の城で、当初の姿を保っているものはほとんどない。先人たちが城を築くために選んだ土地は、後世の人間にとっても防衛に適した場所であり、すでに城のあった場所に、時代のニーズに合わせた新たな建物が加えられたり、改築が行われたりしてきたからだ。
エルサレムの「ダビデの塔」もそのひとつ。少なくとも2000年前、ハスモン朝が塔を建てたのがはじまりとされる。以後十数回にわたって再建が重ねられ、1310年ごろ、マムルーク朝によって今の形が出来上がり、16世紀にはオスマン帝国によってさらに増築されたという。
このダビデの塔のように中東や中国では古くから石造りの要塞が造られていたが、ヨーロッパで石造りの城が見られるのは意外にも中世、10世紀に入ってから。それまでの簡素な木造や人工の丘の頂に囲いを築いただけの「モット・アンド・ベイリー」と呼ばれる建築物が、頑丈な石造りの建物に造りかえられていった。
イングランド・ケント州の「リーズ城」も1086年に築かれた最初の砦が1119年に石造りに建て替えられたもの。湖に囲まれた荘厳なたたずまいの城は、13世紀後半にはイングランド王エドワード1世の居城だったという。
そして1200年以降、軍事施設としての城は新たな課題に直面する。火薬兵器の登場だ。真っすぐで平らな壁は砲弾に弱く、四角柱の塔も角を落とされやすい。そのため軍事目的の城では、低めで曲線状の分厚い壁を砲弾に耐えられる頑丈な円柱形の塔で挟んだ城壁を造るなど、弱点への対策が施された。
十字軍が1228年に地中海沿岸の島に創設した「海の城」(レバノン・サイダ)は、1840年の時点でもなお軍事要塞としての役割を果たし、その外壁には、エジプト・トルコ戦争(1839~1842年)に介入したイギリス海軍が撃ち込んだ多数の砲弾が今も、めり込んだままで、要塞の堅牢さを今に伝える。
他にも、「ドラキュラの城」として知られる「ブラン城」(ルーマニア)や、「アルハンブラ宮殿」(スペイン)など観光名所にもなっている名城から、2003年の地震で全壊するまで世界最大のアドべ(日干しレンガ)建造物だった「アルゲ・バム」(イラン)の在りし日の姿、そして日本の大阪城や松本城など日本の城まで約150もの城を収録。
今は、静かにたたずむそれぞれの城をながめ、かつてそこで繰り広げられてきたであろう戦争や権力闘争、そしてロマンスなどに思いをめぐらしていると、時が経つのも忘れてしまう。
(原書房 4950円)