「JAPANISM─世界に伝えたい、日本美景─」 山田悠人著
2013年にドイツに移住した著者は、久しぶりに帰国した際に、東京の街の活気やネオンの輝きに圧倒されたという。以来、帰国するたびに東京の夜景や人々を撮影するようになり、住んでいるときには当たり前で気がつかなかった生まれ育った日本の素晴らしさや独自の良さを再認識。
本書は、そんな日本の美しさを写真を通して世界に伝えようと、4年をかけて全国を巡り撮影した作品集。
SPRING。日本の春といえば桜だ。
弘前城のお堀を彩る満開の桜と水面を埋め尽くす花筏、桜のトンネルをくぐりぬけて気動車が到着する津軽鉄道・芦野公園駅、満開の桜並木の下を女性騎手が馬で走り抜ける「桜やぶさめ」(青森県十和田市)、ライトアップによって桜の迷宮に入り込んでしまったかのような東京・目黒川の夜桜など、各地の桜の風景に冒頭から引き込まれる。
もちろん日本の春は、桜だけではない。
茨城県国営ひたち海浜公園の菜の花とネモフィラが競演する丘、まるで空から紫の藤の花が降り注いでいるかのような福岡県北九州市の河内藤園など、百花繚乱の春の風景があるかと思えば、京都の伏見桃山陵の230段にものぼる大階段や、同じく京都の愛宕念仏寺の苔むした阿羅漢など、一転して静謐で空気が張り詰めた風景をとらえた作品もある。
長い冬を耐えてあふれ出した自然界の生の歓喜と、生命の輪廻を思い起こさせる静の風景、その躍動と緊張のリズムが心地よい。
SUMMERの章は、印象的な一枚から始まる。
小笠原諸島、父島の海を空からとらえた作品だ。透き通った浅瀬に白いボートが浮かぶ、まさに楽園の風景なのだが、海の底に横たわる沈没船の残骸が、かつてここが戦場だったことを伝える。沈没船は第2次世界大戦中に沈んだ貨物船で、現在は魚たちの住居になっているという。
水鏡と化した湖面に周囲の深い森とシカの家族が映し出された長野県茅野市の御射鹿池の幻想的な風景、玄界灘に沈みゆく夕日に輝く佐賀県東松浦郡・浜野浦の田植え前の棚田など、神話の時代と変わらない手つかずの自然の風景とその自然と調和した人間の営みがつくり出す風景。
日本の美しい風景だけを表層的にとらえるのではなく、日本の豊かさや文化、歴史、伝統、そして日本人の精神性までが写真からにじみ出る。
さらに、紅葉真っ盛りの奈良公園内にあるかやぶき屋根のお茶屋の前の日だまりに現れたシカや、長野の妻籠宿「脇本陣奥谷」の内部、重厚な木造建築の囲炉裏から立ち上る煙と格子を通して差し込む光がつくり出す一景、そして吹雪の中の戸隠神社参道の巨大な杉並木や、雪化粧されて一段と趣を増した石川県の兼六園など、秋、冬の日本の各所を巡る。
日本を見直す原点となった渋谷のスクランブル交差点や大阪の心斎橋など、ネオンの輝く夜景も収録。
日本人には日本の再発見の、そして外国人へのお土産にも最適の一冊。
(パイ インターナショナル 2530円)