「装飾古墳の謎」河野一隆著
有名な高松塚古墳やキトラ古墳のように彩色壁画を持つ古墳は「壁画古墳」と呼ばれる。一方で、古墳内の石室や石棺、横穴など埋葬施設の内外部に、彫刻や線刻、彩色などの装飾技法によって図文を表現した古墳を「装飾古墳」と呼ぶという。
たとえば、熊本県の井寺古墳の石板に施された図文は、直線と弧線を複雑に組み合わせ赤と白で塗り分けている。「直弧文」と呼ばれるこの図文の再現には代数幾何学の知識が不可欠で、当時の人々が死者のための空間を念入りに設計、演出していたことが分かる。この装飾古墳、なぜか古墳時代の中枢であった近畿地方には少なく、九州や関東に集中しているという。
古代のアートともいえる装飾古墳を紹介するとともに、世界各地の装飾墓と比較しながら、その誕生の謎に迫る考古学本。 (文藝春秋 1595円)