「ゆるカワ 日本美術史」矢島新著
日本発の「カワイイ」文化は世界を席巻し、「カワイイ」はもはや共通語になりつつある。現代人の「カワイイ」もの好きはご先祖さま譲りで、日本美術最大の特色は「庶民的で親しみやすい造形が発達したこと」だという。
本書は、そんな日本美術のオリジナリティーである「ゆるさ」や「かわいさ」に注目して、古代から近代までの作品を解説する日本美術通史。
日本美術の歴史は、「外からやってきたリアルで威圧的な造形を、ゆるくてかわいい造形に変換してきた」歴史だったと著者はいう。例えば、近代以前に中国から、近世中期以降に西洋から流入した絵画は、リアリズムに秀でたものがほとんどだった。日本の絵師たちは、はじめはそれらに素直に学ぶが、時が経つうちにリアリズムを薄め、デザイン的や、ゆるく素朴な表現に変えてしまった。その変換システムこそが日本のオリジナリティーの核心だそうだ。
ただ縄文時代は別格。縄文土器は、外からの影響抜きで、当時の人々の持って生まれた造形感覚の表れとみなせる。
そんな縄文土器のひとつ、陶芸家の濱田庄司愛蔵の「遮光器土偶」をはじめ、素朴さが「言いようもなくかわいい」古墳時代の埴輪「腰かける巫女」など、時代順に「ゆるカワ」美術品を鑑賞。
ゆるカワの実質的出発点は室町時代だという。この時期、社寺の由緒や霊験を説く縁起絵巻が量産され、庶民の信仰生活に入り込み始める。そんな勧進目的の縁起絵巻や、艶笑譚もあるお伽草子絵巻に続いて、絵を商品にして売る「扇屋」や、手軽に買えるアートとして「大津絵」が登場する。
以降、歌川国芳らの浮世絵や、横山大観、竹久夢二まで。日本美術の広大な森に分け入り、カワイイ文化のルーツに迫る面白アートテキスト。
(祥伝社 1200円+税)