ノーベル賞作家の遺灰を故郷へ運ぶ旅路

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「遺灰は語る」

 映画監督には兄弟で作品製作をするという人たちが珍しくない。監督になりたいという夢は子ども時代に芽生えやすいが、小説と違って映画は単独では難しい。となれば身近な兄弟を同志にする例も多くなるというものだろう。

 そんな兄弟監督のなかでもおそらく最高齢なのが、イタリアのタヴィアーニ兄弟。

 兄ヴィットリオは5年前に88歳で亡くなったが、今年92歳の弟パオロの初の単独監督作が先週末封切られた「遺灰は語る」である。

 物語はシチリア出身の作家でノーベル文学賞を受賞したルイジ・ピランデッロの遺灰を故郷に運ぶ話。受賞はファシズム全盛の1934年、死去はその2年後だったから、独裁者ムソリーニは彼の葬儀を政治宣伝に利用した。

 ちなみに「ファシズム」はもともとイタリア語で「結束主義」を意味する。ピランデッロ自身、20年代にはファシズムを熱烈に支持する知識人の列に加わった時期がある。そうした事情はイタリアでは周知のことらしい。

 だが、映画はこの辺の事情をぼかしつつ、戦後、故人の遺志で遺灰を故郷へ運ぶ旅路をじんわり語る。モノクロームの画面が美しく、最初の哲学的な印象が次第に滑稽味を増すあたりも絶妙に面白い。

 ちょっと解せないのはエピローグの「釘」と題する章。ピランデッロの最後の掌編を短編映画にした部分で、見る人しだいで評価が分かれるところだろう。評者が見るところではピランデッロの故郷シチリアの風土が深くはらむ壮絶な暴力性に対する、温和なトスカーナ出身のタヴィアーニによる精いっぱいの応答という気がするがいかがだろうか。

 実際、シチリアはイタリアでも別格の風土で屹立した観がある。武谷なおみ編訳「短篇で読むシチリア」(みすず書房 3080円)はそんなシチリアに心底惚れた文学研究者選りすぐりの短編集だ。 <生井英考>

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