「熊神」川村湊著

公開日: 更新日:

「熊神」川村湊著

 熊と人との関わりを示唆する物語は世界各地に残っている。熊に襲われた貴婦人が熊の子を産むリトアニアの伝承や、熊女が人と交わって後に王となる子を産む朝鮮の話などがその例だ。日本でも、熊と人の関わりを示す伝承は数々ある。本書は、ユーラシア大陸の人獣相姦の説話を起点に、諏訪信仰や甲賀三郎伝説、熊野信仰、アイヌの熊送りなどを検証しながら、熊への信仰心の中に眠る縄文の記憶を掘り起こす。

 たとえば、諏訪大社には、狩猟に関する神事や祭事が残されており、熊との関係を示す数々の痕跡があった。また、縄文社会の狩猟民的な精神文化のシンボルが「熊」であり、農耕が広まるにつれ信仰の対象の「熊」は排除されていった。これらの事実は、古事記で高天原から遣わされた建御雷神が建御名方神を投げ飛ばして国を統合し、逃げたとされる建御名方神が諏訪の地にとどまった物語と、どこか重なってくる。

 記紀神話は征服者が支配を安定させるイデオロギー装置として働き、それが象徴天皇制として今まで連続してきたと著者は説く。熊に象徴される縄文神話から、日本の精神文化の核心が見えてくる。

(河出書房新社 3190円)

【連載】木曜日は夜ふかし本

最新のBOOKS記事

日刊ゲンダイDIGITALを読もう!

  • アクセスランキング

  • 週間

  1. 1

    「おまえになんか、値がつかないよ」編成本部長の捨て台詞でFA宣言を決意した

  2. 2

    これぞ維新クオリティー!「定数削減法案」絶望的で党は“錯乱状態”…チンピラ度も増し増し

  3. 3

    「おこめ券」迫られる軌道修正…自治体首長から強烈批判、鈴木農相の地元山形も「NO」突き付け

  4. 4

    査定担当から浴びせられた辛辣な低評価の数々…球団はオレを必要としているのかと疑念を抱くようになった

  5. 5

    岡山天音「ひらやすみ」ロス続出!もう1人の人気者《樹木希林さん最後の愛弟子》も大ブレーク

  1. 6

    12月でも被害・出没続々…クマが冬眠できない事情と、する必要がなくなった理由

  2. 7

    やはり進次郎氏は「防衛相」不適格…レーダー照射めぐる中国との反論合戦に「プロ意識欠如」と識者バッサリ

  3. 8

    ドジャース佐々木朗希の心の瑕疵…大谷翔平が警鐘「安全に、安全にいってたら伸びるものも伸びない」

  4. 9

    黄川田地方創生相が高市政権の“弱点”に急浮上…予算委でグダグダ答弁連発、突如ニヤつく超KYぶり

  5. 10

    2025年のヒロイン今田美桜&河合優実の「あんぱん」人気コンビに暗雲…来年の活躍危惧の見通しも