「谷から来た女」桜木紫乃著
「谷から来た女」桜木紫乃著
主人公はアイヌの出自を持つ赤城ミワ。ミワに関わった人たちの語りを通し、彼女の生い立ちからデザイナーとして活躍する現在までを描いていく連作短編だ。
大学教授の滝沢龍は、地元テレビ局の番組審議会でミワと出会った。滝沢はミワの迷いのない言葉や態度、アイヌ紋様デザイナーとしての矜持に惹かれ、やがてミワに誘われるような形で2人の関係が始まる。そんな折、ミワに事務所の金を持ち逃げされるトラブルが発生。滝沢のアドバイスは立場の異なるミワと距離をつくってしまい、さらに取り返しのつかないひと言で別れは決定的なものになってしまう(表題作)。
「ひとり、そしてひとり」に登場するのは、美術学校の同期生・千紗。アクセサリーショップとセクシーパブで働く千紗は、すすきので偶然にミワと再会。卒業と同時に工房を持ったミワを羨みつつも、一緒に過ごすうちに言い訳をしてきた自分の格好悪さを思い知る。
本人よりも先に察知する勘、嘘を見抜く瞳──。ミワと関わった人たちは、自分の無意識に気づき、ある者は傷つき、ある者は抵抗する。ミワの問いは、登場人物のみならず読む者の心も揺さぶるに違いない。
(文藝春秋 1870円)