著者のコラム一覧
嶺里俊介作家

1964年、東京都生まれ。学習院大学法学部卒。2015年「星宿る虫」で第19回日本ミステリー文学大賞新人賞を受賞し、デビュー。著書に「走馬灯症候群」「地棲魚」「地霊都市 東京第24特別区」「昭和怪談」ほか多数。

エドワード・ゴーリーは絵本を通じて、世界が含み持つ残虐性を子供に提示した

公開日: 更新日:

世界が含み持つ残虐性を絵本を通じて子供に提示した作家・ゴーリー

 大学生時代、私は絵本やアニメーションを作ることを楽しむサークルに所属していました。

 なにしろ絵本製作には『絵を描く』『話を作る』『製本する』という3つのものづくりが関わっているし、さらには視力に難がある人のための点字絵本や、本そのものに仕掛けを作る飛び出す絵本へ工夫できるので、創作意欲を満たすこの活動に私は没頭したものでした。

 当時は東京の水道橋駅近くに製本の私塾があり、そこの生徒さんから箔押しや活字を並べて転写する技術を学ぶ機会があったため、それが手作り絵本の製作へ活きました。

 そんなわけで、私はとりわけ絵本に対して興味を持っています。

 安野光雅の『旅の絵本』シリーズやルイ=モーリス・ブーテ=ド=モンヴェルの『ジャンヌ・ダルク』、モーリス・センダック の『かいじゅうたちのいるところ』には時間を忘れて魅入ったものです。

 幼い子に基本的な喜怒哀楽といった感情や倫理を教えるのも絵本の重要な役割ですね。

 もちろん、危ないものに対する注意する意識や怖いという感覚と一緒に。

 そんな作品群を生んでいた作家の一人が、エドワード・ゴーリー。イリノイ州シカゴ出身の、アメリカの絵本作家です。

 世界が含み持つ残虐性を、彼は絵本を通じて子供に提示しました。

■モノトーンの絵が作品世界に陰を覆わせる

 優しい言葉をかけて子供を連れて行こうとする大人、お菓子や玩具に誘われて付いていった子供がどうなるか──。

 その怖ろしい結末を、彼は読み手である子供に突きつけます。

 絵柄は色鮮やかなものではなく、華やかではありません。黒い線画が織りなすモノトーンの絵は、作品世界全体に陰を覆わせている。

 描写もあからさまではない。語り口調も淡々としている。死体は画面の外側に収められているけれど、想像力をかき立てるには充分な画です。扉の陰から伸びる細長い指は、それだけで体を強張らせてしまう。

 彼が描く作品世界は、子供のみならず大人すら引き込み、シニカルに、ときにユーモアを交えて、 世界の不条理や残酷な現実を表現しています。

最新のBOOKS記事

日刊ゲンダイDIGITALを読もう!

  • アクセスランキング

  • 週間

  1. 1

    国分太一の先行きはさらに険しくなった…「答え合わせ」連呼会見後、STARTO社がTOKIOとの年内契約終了発表

  2. 2

    大谷翔平も目を丸くした超豪華キャンプ施設の全貌…村上、岡本、今井にブルージェイズ入りのススメ

  3. 3

    100均のブロッコリーキーチャームが完売 「ラウール売れ」の愛らしさと審美眼

  4. 4

    岡山天音「ひらやすみ」ロス続出!もう1人の人気者《樹木希林さん最後の愛弟子》も大ブレーク

  5. 5

    日本語ロックボーカルを力ずくで確立した功績はもっと語られるべき

  1. 6

    都玲華プロと“30歳差禁断愛”石井忍コーチの素性と評判…「2人の交際は有名」の証言も

  2. 7

    規制強化は待ったなし!政治家個人の「第2の財布」政党支部への企業献金は自民が9割、24億円超の仰天

  3. 8

    【伊東市長選告示ルポ】田久保前市長の第一声は異様な開き直り…“学歴詐称”「高卒なので」と直視せず

  4. 9

    AKB48が紅白で復活!“神7”不動人気の裏で気になる「まゆゆ」の行方…体調は回復したのか?

  5. 10

    ラウールが通う“試験ナシ”でも超ハイレベルな早稲田大の人間科学部eスクールとは?