小泉八雲の「怪談」は刊行から100年経っても楽しめるし怖い
怖い話の代表作と言えば、なにを思い浮かべますか。
『今昔物語集』でしょうか。それとも『雨月物語』かな。えっ、『耳嚢(みみぶくろ)』? あなた、通ですね。
ちなみに日本三大怪談と言えば『四谷怪談』と『皿屋敷』と『牡丹燈籠』だそうです。
しかし今回の書籍は、そのどれでもありません。
小泉八雲著『怪談』。『怪談(kwaidan)』だと声高に叫ぶ人はマニア。ラフカディオ・ハーン著、南條竹則訳『怪談』(光文社古典新訳文庫:902円)など、多くの出版社から刊行されています。
読んだことがない人でも、知らない人はいないでしょう。
私が本書を特に高く評価するのは、全世代に楽しめる書だから。
子どものころに『耳なし芳一』や『むじな』をテレビアニメで観て震え上がり、『雪女』の絵本を何度も繰り返し読んだ経験はありませんか。
『耳なし芳一』。
寺に住む琵琶法師の芳一は、平家物語の弾き語りの名手だった。
ある晩、現れた一人の武者に請われて芳一は七日七晩の弾き語りへと赴くことになった。毎夜一人で出かけていく芳一を不審に思った住職が寺男にあとをつけさせると、無数の鬼火に囲まれた芳一が墓場で一人、琵琶の弾き語りをしていたのだった――。
耳を引きちぎられても声を出さずに堪えた芳一に、怖気が走りませんでしたか。
個の恨みではなく、怨恨を募らせた集団の憎悪は、なにかしでかしてもおかしくないと、妙に説得力があります。甲子園のアルプススタンドを揺るがす轟音なんて身体が震えるじゃないですか。一人二人死んでもおかしくないなと思うのは私だけか。
数ある話の中で、私が特に怖いと思ったのは『破られた約束』。
最愛の妻と死に別れた主人公が、のちに再婚したところ、1週間後に若妻から離縁を懇願される。「今すぐ」──。
小泉八雲の生徒の一人が、出雲地方の伝説の中ではもっとも凄いものだと断言したそうなので、私の感覚もあながち的外れではあるまい。
大人も子どもも、世代を超えて楽しめる作品。――そんな怖い話が、はたしていくつあるのかな。
『怪談』は、50年経ったいまでも色褪せることなく心を震わせる。いや、50年どころじゃない。刊行された明治37年(1904年)から、実に100年以上経った現在に至るまで楽しませてくれる、文字通りの不朽の名作となっています。