「新・空き家問題」牧野知弘氏

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「新・空き家問題」牧野知弘氏

 2014年に「空き家問題」を出版した著者。その後、空き家の解体費補助や空き家バンクの開設などの対策が打たれたものの、空き家は増加する一方で、24年4月の総務省の発表によれば、全国で900万戸を突破。今や7軒に1軒が空き家だ。

「戦後3大都市圏を中心に人口の集積が進んだ結果、30年以降には相続を機に大量の空き家が発生します。本書では、現在に至るまでの空き家の推移を追いつつ、首都圏の空き家問題、特に今まで見過ごされていたマンションの空き住戸に焦点を当てました」

 一般に空き家問題と聞いて想像するのは地方に残した親が所有する一軒家だろう。しかし、盲点なのが首都圏郊外のマンションの空き住戸だという。たとえば都心から通勤1時間程度にあるマンションが次世代への相続を迎える際、築年が古く、高齢者が多いと、子ども世代は住みたがる可能性が低い。しかし、相続後は居住の有無にかかわらず、管理費や修繕積立金が毎月発生。それを把握せず放置してしまうケースも多いのだ。

「滞納が続けば設備の更新ができず、資産価値が下がって売ることもできないなど、放置された部屋がほかの所有者に大きな影響を及ぼします。マンションは、外から見て空き住戸かどうかわかりにくい上に、相続者も部屋の鍵をかけたまま通風も通水もしないなど油断しがちです。空き住戸を外国人が借りたり買ったりした結果、管理が行き届かず元の住人が逃げ出すこともある。スラムといえば外国の話と思うかもしれませんが、日本でもスラムが形成される可能性もあるんです」

 本書では、空き家の増加が見込まれる実態を国の統計や調査をもとに紹介しつつ、おひとりさまの空き家問題や国と自治体による空き家対策にも言及。30年以降を見据えて、根本的に空き家をなくすためにはどんな方策が必要なのかも解説している。

「目の前から空き家をなくせば問題が解決すると思いがちですが、撤去しても空き地が生まれ過疎化が進むだけで解決にはなりません。古い建物が問題なのではなく、地域にとどまるだけの魅力がないから空き家が生まれる。つまり地域の放棄、コミュニティーの崩壊が背景にあるんですね。人口減少地域はインフラの維持が難しく、八潮市のような事故も起きかねないので、いずれ集住化も必要かもしれません。昔炭鉱の村が閉鎖されたように、『町じまい』を余儀なくされることもあり得るのです」

 著者は、空き家が増える一方、毎年80万戸の新築住宅が着工されている現状も紹介し、昭和から変わらない住宅増加の政策も見直す必要があると訴える。

 家は資産だと思っていたのに、下手をすれば地方には住んでいない親の家が残り、現在住んでいる郊外マンションの地域も過疎化が進むという「W負動産」に悩まされることにもなりかねない。

「先送りしたところで、必ず空き家問題は起こります。ならば早めにご近所、マンションならその住人同士で問題を認識し、共有した方がいい。そして、親が子どもに資産の情報開示をすることをお勧めしたい。相続が発生してから慌てて考えるより、生前贈与なども含めて、不動産をどうするか、本書を参考にして話し合っていただけたら」 (祥伝社 1012円)

▽牧野知弘(まきの・ともひろ) 東京大学経済学部卒。ボストンコンサルティンググループ、三井不動産などに勤務の後、不動産投資信託執行役員、運用会社代表取締役を経て、現在オラガ総研代表取締役。「不動産の未来」「負動産地獄」「家が買えない」など著書多数。

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