歌手・加藤登紀子が振り返る 宮崎駿監督と「紅の豚」秘話
「さくらんぼの実る頃」は、1871年のパリコミューン崩壊後の悲劇をテーマにした、シャンソンの代表曲のひとつ。映画の中では原語で歌っています。お会いして初めての録音でしたから、まだ完全に歌いこなしておらず、歌詞を書いた紙を片手に、ピアノは当時の私のマネジャーが遠慮がちに弾いたんです。
後日、製作記者発表の際に、その時に録音した曲が流れ、初めて、仮録音ではなく、映画でも使われることを知ったのです。録音は当時でさえ珍しくなっていたアナログの2チャンネル方式といわれるもの。これだとピアノと歌のバランスを変えられず、ミキシングもできないんです。ですから、CD化する際は困ったと思いますよ。
でも、宮崎さんは「あれ以上のモノはないと思います」とおっしゃって下さいましてね。「歌手に判断する権利はないのか?」って思ったものの、試写会を見ると、そのシーンの雰囲気によく合っていて、さすがだなって感心したものです。
また、エンディング曲「時には昔の話を」は、もともと87年2月にリリースしたアルバム「MY STORY~時には昔の話を~」に収録されていたオリジナル曲です。この年の4月に、このアルバムの中の「百万本のバラ」とカップリングでシングル発売しています。お会いする4年も前の曲をちゃんと聴いて、選んで下さったのも、歌手冥利に尽きますね。