稽古を通じて“同志”になった 俳優・内野聖陽への信頼
余分なものを削いで削いで、シンプルなのに純度の高い、人の心に染み入るような物語を提供したいと思ったんです。「ふたりものがたり」の舞台にあるのは2つの椅子と2人の俳優だけ。その第1作に選んだのは、伊集院静さんの「乳房」です。伊集院さんが亡き妻・夏目雅子さんとの最後の日々を描いた自伝的短編です。それは、とても切ない清澄な物語です。
酒とギャンブルに明け暮れる無頼派のCMディレクター役は内野聖陽さんに決めました。内野さんは、デビュー作・森田芳光監督「ハル」の青年役から、テレビドラマ「JIN~仁」の坂本龍馬役まで、演技の幅がすごいな、と。95年湯布院映画祭で見た「ハル」はみずみずしく、さらに「JIN~仁」での龍馬は豪放磊落で、内野さんにはもっともっと可能性が潜んでいる、と思いました。
■俳優と演出家の関係を超えて
はじめてお会いした時、「まだ台本を5回しか読んでないんですが」とおっしゃって。真摯な姿勢で役にアプローチする方と聞いてはいましたが、すでに5回も読んでくれたことに、頭が下がりました。さらに「テキストなしの芝居でやりませんか」とか、「はやく稽古はじめましょうよ」と積極的で頼もしく、お稽古がはじまった今では俳優と演出家というより、ものづくりの同志という関係です。