対談/能町みね子&プチ鹿島 コロナ狂騒で見えた真実と思惑
4カ月足らずであっという間に世の中が大きく転換してしまった――。コロナウイルス禍は人々の想像を上回る長期戦に突入し、経済的にも心理的にも張り詰めた状況が続く中、この2人による特別リモート対談が実現した。常日頃から新聞計13紙を購読し、読み比べする「ピン時事芸人」ことプチ鹿島さんと、独自の洞察力を文章にしてピリリと発信し続ける能町みね子さん。両者はこの“コロナ狂騒”をどう見る?
■反対意見で政策が修正されつつあるのは僅かな希望(能町)
鹿島 新型コロナウイルスは皆にとって身近かつ切実な問題ですが、見えない敵のおかげで見えてきたこともありますよね。明らかに安倍さん、ないしは安倍政権の潮目は変わった。
能町 これまでも疫病をきっかけに、いろんなものがあぶり出されてきたのは歴史が証明しています。
鹿島 度重なる政府の後手後手対応が取り沙汰されていますが、とりわけ補償の問題。臨時休校に伴って子供の世話で休業せざるを得ない保護者への小学校休業等対応助成金・支援金の支給対象だって、初めは風俗業は除外だといっていた。
能町 政権の支持率が下がったら、減収世帯への30万円支給から、国民1人に一律10万円の給付に変わりました。反対意見の声によって政策が修正されつつあるのは僅かな希望です。
鹿島 首相官邸は好感度重視の戦略でSNSをこまめにチェックしているんでしょう。だったら、我々国民はもっと声を上げるべきです。
安倍首相は定例会見を行うべき(鹿島)
能町 安倍さんは自分を支持してくれる20代の若者向けにアピールするのが大得意。星野源の「うちで踊ろう」便乗動画を見ても、本気で“安倍さんかわいい”って思う人はいると思います。
鹿島 35万超えの「いいね」ですからね。参院選前に芸能人と食事した画像をSNSにアップして、ふわっとした親近感を抱かせたのも上手。おまけに官僚の人事を握り、自分が遠くから見ていることが伝わるシステムをつくることにもたけていらっしゃる。
能町 忖度させるのが、うまいですよね。緊急事態宣言を全国に発令したのに総理会見の回数が少ないのも何かの忖度?
鹿島 たしかに定例会見は行うべきです。東京をはじめ全国での感染拡大につながったのは3月20~22日の3連休。安倍さんも小池さんも、なぜ3連休前に会見を開かなかったのか。森友問題を巡り公文書改ざんを命じられ、自殺に追い込まれた元財務省職員・赤木俊夫さんの手記が載った「週刊文春」が発売された直後で、森友の質問が出るのが嫌だったからではという政権幹部のコメントが東京新聞に載っていました。
能町 すごい話ですよね。3連休の2週間後、感染者の急増を受けて東京では4月7日に緊急事態宣言が発令されました。
鹿島 お花見シーズンでもあったわけで、トップが「緩まないでください」と国民に向けてきちんと発信しなければいけなかった。大問題だと思います。
小池都知事はザ・ポピュリスト(鹿島)
能町 頭が悪い人に統治されるのは嫌だけれど、安倍さん以上に存在感が増しているのが、小池百合子都知事や橋下徹氏っていうのもつらいです。
鹿島 「自己責任論」を振りかざした最初の政治家は小池さんですからね。16年前、当時、環境大臣だった小池さんはイラクで人質となった被害者に対し、〈自分自身の責任の部分が多い〉と発言していた。今回、東京五輪の開催延期が確定した途端、「ロックダウン(都市封鎖)」などと言いだし、初動の出遅れを取り戻そう感がミエミエです。
能町 ヒカキンとのコラボ動画を見ても、小池さんが内心何を考えてるのかが分かりません。安倍さんの星野源動画よりセンスがあるし、印象に残るフレーズの使い方がうまい。だからこそ、余計に怖さがにじみ出ているというか。
鹿島 俯瞰して見ると、慌てて都民のご機嫌をうかがっているザ・ポピュリストですよね。3年前の衆院選では希望の党の公約として、満員電車ゼロとか“ゼロ”をずっと並べてましたっけ。
能町 実現したものは、ゼロですけどね。
鹿島 「ウイルスゼロ」とか「ウイルス、排除します」とか言ってほしかったですね。
■昭恵さんはとんでもなくエンターテイナー(能町)
鹿島 コロナ禍の真っただ中、安倍昭恵さんは大分への団体ツアーに参加してましたけど、昭恵さんって僕たちの想像をはるかに超えてきますよね。そういう意味では完全なるスターですよ。
能町 エンターテインメントがなくなっている中で、とんでもなくエンターテイナーでもある。
鹿島 私的な“桜を見る会”について報じられた時も、首相官邸は「公園ではなくレストランだ」などと謎の擁護に徹してました。
能町 安倍政権に対して擁護してくれる人たちは、どこまでも擁護してくれるんですよね。ネトウヨの中には「天皇は極左だ」と言ってる人もいて。天皇が反日? 言葉の意味が分からなくなってきました……。
鹿島 現政権を守るのが保守だと思っているのかもしれません。日本がおかしな方向に進んでほしくないと発言するのだって、むしろ保守なんじゃないかと。実は日刊ゲンダイも保守だったりして。日本を愛しすぎて政権に対して言葉がキツくなってるっていう。
能町 コロナの感染拡大が止まらない中、ツイッターは感情を増幅させる装置になっています。空気がピリピリしてるというか、喧嘩っ早くなってますね。
鹿島 SNSでは皆、自分の見たい世界しか見ないですからね。
能町 もともと私は、ヘビーツイッタラーだったんですけど、新聞記事のリツイートには「このニュースはこう捉えましょう」といった主観が前面に押し出されていて、それを見るだけで疲れてしまうんです。
鹿島 SNSは情報が飛び交ってるけれど、どのように付き合うかっていうのはすごく大事。自分が頼りにする“フィルター”は必要ですね。
能町 とにかく、淡々と情報を知りたいと思い、新聞4紙を購読し始めました。完全に鹿島さんの影響です。
鹿島 それはうれしいなあ。ちなみに、4紙はどちらを?
能町 日経、朝日、産経、日刊ゲンダイです。媚を売るつもりはないんですけれど……。
鹿島 いいと思います。世の中がタブロイド化して、日刊ゲンダイの論調に時代が合ってきたところでしょうか。まあ、それが良いのか悪いのかは分かりませんが。
(構成=白井杏奈/日刊ゲンダイ)
▽プチ鹿島(ぷち・かしま)1970年生まれ。新聞13紙を購読して読み比べをする時事芸人。雑誌・ウェブなどにコラムを多数寄稿。テレビ朝日系「サンデーステーション」、TBSラジオ「東京ポッド許可局」に出演中。
▽能町みね子(のうまち・みねこ)1979年、北海道生まれの茨城県育ち。文筆業。2006年、イラストエッセー「オカマだけどOLやってます。」(竹書房)でデビュー。著書に「私以外みんな不潔」(幻冬舎)、「結婚の奴」(平凡社)など。