花房観音(作家)
4月×日 ときどき、SNSをやめようと考えることがある。毎日のように、正義の仮面をかぶった人の悪意を目にするからだ。「言葉の暴力」が、自分の心も蝕んでしまいそうだ。
けれど私のようなパッとしない作家にとって宣伝のための無料ツールとしてのSNSはありがたく、なんとなく続けている。
4月×日 古典エッセイスト大塚ひかりさんの新刊「悪意の日本史」(祥伝社 1045円)を読む。大塚さんの古典エッセーは、読みやすく、わかりやすく、そしていつも現代に生きる私たちに古典を通じて人間の真理を気づかせてくれる。今回のテーマは「悪意」だ。冒頭に、大塚さん自身がまだ発売前の本の帯の文言でSNSで炎上したことが書かれている。彼女の作品を読んできた私からしたら、見当違いだとしか思えなかったけれど、「正義の仮面をかぶった悪意」の焔はSNSで広がって、攻撃の矢が凄まじかった。人を傷つけるだけ傷つけておいて、数日すればターゲットは別に移っていくのはいつものことだが、傷つけられた方の痛みは消えない。そんな経験を糧に大塚さんは日本史エピソードの「悪意」を現代につなげて本にした。誰の心にも悪意は存在する。この本を読んで、せめて皆、悪意を自覚して欲しい。
4月×日 実のところ私は、冬の間、かなり病んでいた。いろいろ理由はあるのだが、「消えたい」とずっと考えていた。だからというわけではないが、久しぶりに鶴見済著「完全自殺マニュアル」(太田出版 1282円)を手に取った。1993年に刊行されベストセラーとなり、物議も呼んだこの本だが、驚いたのは今も新刊が入手できて200回以上増刷がかかっているのだ。つまりは、まだ売れている。決して自死をすすめる本ではないのだが、具体的な方法が書いてあるゆえに、「必要」とされ続けていることに複雑な気持ちになった。病んでいる人が多すぎる、死にたい人も、他者を攻撃せずにはいられない人も。私だって、他人事ではない。