栄養豊富なしらすをマヨネーズとチーズの塩分だけで洋風に
カルシウム、タンパク質、必須脂肪酸…すべての栄養素を丸ごと摂取
海辺の鳥を見ていると、大きな魚をくわえたくちばしを天に向けてそのまま喉に丸のみしていることがある。このあと胃の中でゆっくり消化するわけだが、味覚を楽しむ暇もないのは文字通り、ちょっと味気ない。
とはいえ、生命体を頭から尾まで一匹全部丸ごと一挙に摂取できるわけだから、もっとも合理的な食事を実行しているわけだ。さすがに我々には真似できないが、ひとつだけ方法がある。それは魚がまだ、ごく小さいうちにいただいてしまうこと。しらすは沿岸部に群泳しているイワシの稚魚。一度、熊本で漁船に乗せてもらったことがあるが、目の細かい大きなネットで一網打尽。透明な稚魚がピチピチ光っていた。
まだ骨も身もごく軟らかいので、カルシウム、タンパク質などすべての栄養素が十全に含まれた完全食といえる。特に魚の骨が苦手な子どもやお年寄りのカルシウム源としても優れている。また小なりとはいえ、イワシ(青い魚)なので、脳の活動や免疫に必要な必須脂肪酸も豊富に含まれている。
しらすは塩茹でして供するのが一般的だが、そのあとどの程度乾燥するかによって、釜揚げ、しらす干し、ちりめん、と区別され、この順に水分が少なくなるゆえ、水分が少ないほど長持ちする。面白いのは、パックに入ったしらすをよく観察すると、その中にさまざまな海洋生物の幼生が含まれていること。タコ、エビ、カニ、ときには小さなタツノオトシゴまで。小さな命をいただいて私たちは自分の命を永らえる。ここでも食の基本は自然の恵みに対する感謝しかない。
▽福岡伸一(ふくおか・しんいち)1956年東京生まれ。京大卒。米ハーバード大医学部博士研究員、京大助教授などを経て青学大教授・米ロックフェラー大客員教授。「動的平衡」「芸術と科学のあいだ」「フェルメール 光の王国 」をはじめ著書多数。80万部を超えるベストセラーとなった「生物と無生物のあいだ」は、朝日新聞が識者に実施したアンケート「平成の30冊」にも選ばれた。
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