パンデミックの基礎知識 人間同士の感染を止めても根絶できない

公開日: 更新日:

■地球温暖化が拍車をかける

 人類が未知のウイルスと遭遇する確率が増している理由はそれだけじゃない。地球の温暖化も問題だ。ウイルスを媒介する蚊の活動地域が広がり、ウイルス感染症の感染地域が拡大していることに加え、永久凍土が溶けつつあるからだ。

「シベリアの永久凍土が溶けて、そこから未知のウイルスが放出されるリスクがささやかれています。実際、2003年以降4例の古代ウイルスが発見されていて、2014年にピソウイルス、2015年にモリウイルスと呼ばれる、巨大ウイルスが発見されている。いずれも人間には感染しないことがわかっていますが、今後は人間に感染するウイルスが出現しないとはいえないのです」

 また、凍土に閉じ込められた、過去の毒性の強いウイルスが再び目を覚ます可能性がある。そのひとつが天然痘だ。世界保健機関(WHO)が1980年に根絶宣言したが、シベリアで見つかった17世紀の病人の遺体から天然痘ウイルスのDNAが発見されたことが報告されている。

■ウイルス感染症はなぜ感染拡大するのか

 それにしても、病の皇帝「がん」を手なずけるほどの高度な医療技術を持ち、公衆衛生も向上しているのに、なぜ人類を脅かすウイルス感染症は増えているのか? 

「かつてないほど人類が動物との距離を縮めたことが原因だと言われています。都市化が進み、動物しか住んでいなかった山の中にも人が住むようになったため、すみかを失ったコウモリがウイルス入りの糞尿を住宅地にばらまいていることも報告されています。また、人口の急増で動物性タンパク質の食料の需要が急増したことで、狭い場所に多くの豚や鳥などが飼われるようになり、そこに病原性の高いウイルスに侵された鳥の死骸を食べたイノシシなどが侵入して一気に病気を拡大するなどの現象が起きているのです」

 しかも、以前は動物から人に感染しても都市化が進んでおらず交通も不便だったため人から人へ感染するには時間がかかり、それまでに対策が取られたが、いまは都市化に加えて鉄道や航空機により大量高速輸送が可能になり、ウイルスも人間も移動がラクになり、人から人への感染が容易になった。そのため、感染爆発の危険度が増しているのだという。

「いまは、人間と動物、地球環境も含めて、『ワン・ワールド・ヘルス』という考え方を持たなければ人類は健康に過ごせません。私たち人間はともすれば、他の動物よりもワンランク上の特別な存在と思いがちですが、ウイルスにとってはとりつくための種のひとつ、宿主のひとつに過ぎません。人獣共通感染症を引き起こすウイルスによるパンデミックが頻発していることを考えれば、動物を含めた感染症対策が必要だということです。そうでなければ人類はウイルス感染症との戦いに敗れてしまいかねないのです」

 猛威を振るう新型コロナウイルスの対策にこの考え方は取り入れられているのだろうか?

■関連キーワード

日刊ゲンダイDIGITALを読もう!

  • アクセスランキング

  • 週間

  1. 1

    中居正広氏《ジャニーと似てる》白髪姿で再注目!50代が20代に性加害で結婚匂わせのおぞましさ

  2. 2

    中居正広氏は元フジテレビ女性アナへの“性暴力”で引退…元TOKIO山口達也氏「何もしないなら帰れ」との違い

  3. 3

    佐藤健は9年越しの“不倫示談”バラされトバッチリ…広末涼子所属事務所の完全否定から一転

  4. 4

    広末涼子容疑者は看護師に暴行で逮捕…心理学者・富田隆氏が分析する「奇行」のウラ

  5. 5

    パワハラ告発されたJ1町田は黒田剛監督もクラブも四方八方敵だらけ…新たな「告発」待ったなしか?

  1. 6

    矢沢永吉「大切なお知らせ」は引退か新たな挑戦か…浮上するミック・ジャガーとの“点と線” 

  2. 7

    中日井上監督を悩ます「25歳の代打屋」ブライト健太の起用法…「スタメンでは使いにくい」の指摘も

  3. 8

    フジテレビ問題でヒアリングを拒否したタレントU氏の行動…局員B氏、中居正広氏と調査報告書に頻出

  4. 9

    広末涼子容疑者「きもちくしてくれて」不倫騒動から2年弱の逮捕劇…前夫が懸念していた“心が壊れるとき”

  5. 10

    “3悪人”呼ばわりされた佐々木恭子アナは第三者委調査で名誉回復? フジテレビ「新たな爆弾」とは