著者のコラム一覧
中川恵一東大大学病院 医学系研究科総合放射線腫瘍学講座特任教授

1960年生まれ。東大大学病院 医学系研究科総合放射線腫瘍学講座特任教授。すべてのがんの診断と治療に精通するエキスパート。がん対策推進協議会委員も務めるほか、子供向けのがん教育にも力を入れる。「がんのひみつ」「切らずに治すがん治療」など著書多数。

改めて知っておきたい甲状腺がんの問題 TBS「報道特集」が炎上

公開日: 更新日:

 一方の福島では、19歳以下の中央値で4.2ミリシーベルト。最も影響を受けやすい1歳児未満でも40ミリシーベルトにとどまっています。健康影響のなさは、この少なく済んだ被曝量によるでしょう。

 それではなぜ診断数が増えたのか。それは、検査対象を広げたことで、「無害な甲状腺がん」を掘り起こしたのです。

 甲状腺がんは、9割が乳頭がんというタイプ。超低リスク、低リスク、中リスク、高リスクに分かれ、超低リスクは命を危ぶむリスクが少なく、ガイドラインでも経過観察が推奨されます。

 検査の網を広げたことで、この「無害ながん」をすくいあげてしまったのです。当然、これなら経過観察で問題ありません。

 過剰診断の問題はまだあります。「無害」とはいえ、がんと診断された人はちょっと不安でしょう。それで、切除を勧められることがある。甲状腺は代謝を調節するホルモンなどを分泌する器官で、切除すると、一生ホルモン剤が不可欠に。手術で発声に関わる神経も障害され、声のかすれも生じます。手術の代償が大きく、低リスク、超低リスクは経過観察が重要なのです。小児ならなおさらでしょう。

 実は韓国では、甲状腺がん検査を広く行ったことで、過剰診断・過剰治療が社会問題になりました。不要な治療を受けた人が続出したためです。薬害や健康被害の情報はとても繊細なもの。中身をしっかりと吟味する目を養うことがとても大切です。

■関連キーワード

日刊ゲンダイDIGITALを読もう!

  • アクセスランキング

  • 週間

  1. 1

    3年連続MVP大谷翔平は来季も打者に軸足…ドジャースが“投手大谷”を制限せざるを得ない複雑事情

  2. 2

    自民党・麻生副総裁が高市経済政策に「異論」で波紋…“財政省の守護神”が政権の時限爆弾になる恐れ

  3. 3

    立花孝志容疑者を"担ぎ出した"とやり玉に…中田敦彦、ホリエモン、太田光のスタンスと逃げ腰に批判殺到

  4. 4

    最後はホテル勤務…事故死の奥大介さん“辛酸”舐めた引退後

  5. 5

    片山さつき財務相“苦しい”言い訳再び…「把握」しながら「失念」などありえない

  1. 6

    ドジャースからWBC侍J入りは「打者・大谷翔平」のみか…山本由伸は「慎重に検討」、朗希は“余裕なし”

  2. 7

    名古屋主婦殺人事件「最大のナゾ」 26年間に5000人も聴取…なぜ愛知県警は容疑者の女を疑わなかったのか

  3. 8

    阪神異例人事「和田元監督がヘッド就任」の舞台裏…藤川監督はコーチ陣に不満を募らせていた

  4. 9

    高市内閣支持率8割に立憲民主党は打つ手なし…いま解散されたら木っ端みじん

  5. 10

    《もう一度警察に行くしかないのか》若林志穂さん怒り収まらず長渕剛に宣戦布告も識者は“時間の壁”を指摘