SF作家・山本弘さんが68歳で他界…「誤嚥性肺炎」60代、若くして発症するリスク
窒息は紙一重。早食いでおかゆも詰まり…
高齢者がもちを詰まらせて窒息死するニュースは、毎年報じられる。その悲劇も、のみ下す力の低下で食べたものが食道ではなく気管に落ちるのが原因だ。窒息例の中にも誤嚥を防ぐヒントがあるという。
「脳梗塞の人はもちろん、元気な方でも気をつけたいのは早食いしないことです。50代くらいの若い人がのどにものを詰まらせて救急搬送されるのは、丼メシをかき込んだり、弁当を慌てて食べたりする早食いが背景にあります。60代でも『自分はまだまだ大丈夫』という人は同じようにかき込む傾向を残している一方、嚥下力は少しずつ低下。それで、本人としては思いもよらぬときに誤嚥を起こしやすいのです。たとえば、パサついたパンを頬張ると、のどに詰まりやすい。それを解消しようとして、慌てて水やお茶を飲んで流し込もうとすると、誤って気管に落ちることがある。それが詰まって窒息するか、肺に到達して肺炎を起こすかは紙一重です」
東京消防庁がまとめた「救急搬送データから見る日常生活事故の実態」では、のどにものを詰まらせる事故も分析。死亡や重篤などのケースをまとめたのが〈表〉だ。なるほど、元気なはずの20~50代の死亡・重篤例の2位タイはおかゆと肉だ。ツルッと食べられそうなおかゆがのどに詰まるほど大量に口に入れる早食いはマズイ。
「そういう食べ方をしていると、熱さに驚いてむせたときに、一部が気管に落ちやすい。ラーメンやそばなどの麺類、スープ類、鍋なども要注意。よくかんで、ゆっくり食べることです」
消防庁のデータでは、ステーキを食べた60代が肉を詰まらせて重症化したケースも紹介されている。ステーキを選ぶような表向き元気な人でも、嚥下力が低下している証拠といえる。過信と早食いは要注意だ。
そこに脳梗塞などの病気で口や舌の動きが悪くなると、なおさらよくない。
「脳梗塞の引き金となる糖尿病や高血圧、脂質異常症などの生活習慣病はしっかりと治療して、脳梗塞を予防することが大切です」
■口の中を清潔に。1日3時間以上の会話を
もうひとつは、口の中の状態だ。
「東日本大震災をはじめとする過去の震災では、交通網が断絶し、水の供給が一時的に途絶えるため、水分摂取が不十分になりやすい。それで口の中が乾燥すると、細菌が繁殖。嚥下機能が衰えた高齢者の場合、細菌が繁殖した唾液を誤嚥することで、誤嚥性肺炎を起こしやすいことが、これまでの震災現場から浮き彫りになったのです。その中には、死亡例もあります。その教訓は、日ごろから口の中を清潔に保つことです」
食後の歯磨きやフロスでの歯間清掃が重要なのは、虫歯予防とともに誤嚥性肺炎の予防でもあるのだ。万が一、震災などに直面したときは、アルコールを含まないウエットティッシュで口の汚れを拭き取るだけでも効果的だという。
若い人の誤嚥性肺炎を巡っては、会話の時間が関係するという報告もある。大分大医学部呼吸器・感染症内科学の小宮幸作准教授らのグループは50~60代の医師310人を対象に嚥下機能を調べるための反復唾液嚥下テストを実施した。その結果、嚥下機能の低さに関連したのは、1日の会話時間が3時間未満のみだった。
今回の調査で対象を医師に限定したのは、テストを正確に行えるため。実際、テスト結果は一般対象に行われた研究結果より高めで、小宮氏のグループは、これを用いて一般化することはできないとしながらも、会話時間の短さが誤嚥性肺炎の予測因子になるのではないかとしている。
「嚥下機能をキープするには食事のときによくかむことが重要といわれますが、そもそも年を重ねると食事量が少なくなりますから、よくかむだけでは不十分。会話であごの筋肉を刺激することは、それを補うことにつながるのかもしれません」
確かに一人で食事をするより、家族や仲間と一緒に食卓を囲む方が会話も弾んで楽しく、いつもより多くの量を食べた上、会話による筋肉刺激も重なって、より効果的なことは明らかだ。そんな食事なら、早食い防止にもなるだろう。
誤嚥性肺炎の予防は、楽しい食卓がキーワードか。