出稽古しなかった隆の里の“イイトコ”と真意 コロナ禍でさらに親方の力量も問われる
■力士のタイプで向き不向きがある
コロナ対策の緩和に伴い、6日に出稽古が解禁された。2年3カ月ぶりだ。予定を日本相撲協会に届け出た上で、訪問前日とそれ以降3日ごとの簡易検査が課されるが、希望すれば行けるようにはなった。
出稽古の必要性や成果は部屋の環境、立地条件、力士のタイプなどによるので一概に言えない。かつて出稽古で有名だった千代の富士と、出稽古をしない隆の里は相撲史に残る好敵手だったし、千代の富士も出稽古だけではない。ある年の正月の稽古始めに、部屋で北勝海(現八角理事長)と稽古をして「最初だからこんなもんだな」と切り上げた時でさえ、横綱同士で26番取っていた。
強くなるために何が必要かを考えに考え、性根を据えない限り、どこで稽古しても成果は出ない。出稽古の予定一覧表を見た協会幹部は、「師匠同士が、どこかの部屋へ集まってじっくりやろうとか、誰と誰をみっちり鍛えようとか話した形跡はない。親方たちも問われている」と嘆いた。
外出や飲食も緩和されてきた。コロナ禍の稽古や生活の不自由は同情されたが、だんだん言い訳の材料がなくなってくる。いつか終息した時、自粛期間中に知恵を絞った稽古の秘話を語ってくれる親方や力士がいるだろうか。多少は盛ってもいいから聞きたいものだ。
▽若林哲治(わかばやし・てつじ) 1959年生まれ。時事通信社で主に大相撲を担当。2008年から時事ドットコムでコラム「土俵百景」を連載中。