日雇い絵描きの愉しみ
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記憶のスケッチ…朝の散歩道で見た風景になぜか心惹かれた
朝の散歩の途中、玉川上水の雑木林でベンチに腰かけてひと休みする。歩いてきた小道を眺めると、夜が明けて間もない静寂の中で木々が細い小枝を重ね、どことなく繊細な景色をつくりだしていた。その向こうでごみ処…
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群馬の「電気畑」をスケッチした後はおじさんの楽園で一杯
ガス会社の新聞広告のために、広告代理店のゲンさんと群馬まで太陽光の発電所をスケッチに行った。 広告の仕事では、ふだん自分では行けない場所で絵を描くことができて面白い。 昨年は、救命胴…
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絵と料理は似ているが…料理人のほうが大事にされている
かねて、絵と料理は似ているなと思っていた。絵の具をテレピン油で薄くのばすのは、醤油を酒でのばすようであるし、絵の具を重ねて奥行きを出していくことも、素材を合わせて味の深みを出すのと似ている。魚をまる…
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パン屋の庭でコッペパンをほおばりコーヒー飲む日曜日の朝
日曜日の朝5時半すぎ、まだ外が暗い時刻に家を出て、白い息を吐きながら玉川上水の鬱蒼とした木立のなかを歩いていく。行き先はなく、くたびれるまで歩いてみる。 そのうちにだんだんと明るくなってきて…
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飛騨高山「漬物ステーキ」を真似て作ると酒の途中でめしが
今年の冬は暖かくて過ごしやすいとか、野菜が安いとか喜ぶ人がいたけれど、僕には少々物足りなかった。冬になると鉛色の雲がたち込める日本海側で育った僕は、東京のからっとした青空と凛とした景色に触れ、冬が好…
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ヤーコンのほっこりとした風味に南米の思い出がよみがえる
家の近くに、JAがやっているファーマーズマーケットがある。周辺の農家で採れた新鮮な農作物を売っているのだが、ここでは時々、珍しいものに出合う。サンザシやヤマボウシの実、むかごなどが売られていたりする…
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宮崎県南部の農家「ごぼう部会」の情熱がつまった新牛蒡
牛蒡といえば、いつも太くて黒い土のついたものを買うのだが、八百屋の棚で白い肌をむきだした細い牛蒡が目にとまった。 「それね、アク抜きせずに、生のまま味噌漬けにするとうまいすよ」 と八百…
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燗酒と玉葱の酢漬け その禁欲的なたたずまいにそそられる
最近、僕が酒がうまそうだと思う景色は、いずれもどこか貧しく、質素なものであるということに気がついた。それは、たとえば安酒場に入った時に誰かがひとり静かに豆腐を肴に飲んでいる景色であったり、キリストが…
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30年過ぎても忘れない あのソースの味とトーチ・パクチー
まだ若い頃だった。ウーロン茶の新聞広告の絵を描くために、南中国の茶農家に取材に行ったことがあった。数泊したうちの一夜、地元の役人たちとの交流のための晩餐会が催されたのだが、その時食べた中国料理のうま…
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新年会兼ねた打ち合わせで酔って なぜか夜の庭で寒風摩擦
友永君は、都内で生活雑誌の編集の仕事をしている。原稿執筆の依頼だったろうか、4、5年前に銀座のバーで初めて会った。僕と同じく九州の出身で、年齢も同じ55歳。仕事は違うが、学校を出てお互いに東京で30…
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行きつけの床屋で聴く チャイコフスキーのくるみ割り人形
いつも自転車を20分ばかりこいで床屋へ行く。以前住んでいた家の近所にあったので通い始めたのだが、もう僕の髪形を熟知してもらっているし、店主と話も合うから、引っ越して遠くなってからも通っている。 …
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真鱈の切り身か鶏のむね肉を一緒に煮る「湯豆腐」の食べ方
東京の路地に小さな酒場を探しては、飛び込んで酒を飲んでいた時期がある。その頃、神楽坂に、名前は忘れてしまったが、うまい湯豆腐を出す店があった。 モルタルのボロいアパートの1階の入り口までたど…
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そばやの肴は七味をふっただけのもり一枚でちびちびと
お昼すぎに都内で打ち合わせが終わり、そのあと夕方まで何も予定がないというようなときがある。ぽつんとした時間ができて暇をもて余す。 若いときならば、上映時刻を調べて映画館へ行くか、友人の誰かに…
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主役は焼き魚…自宅で再現する思い出の「麦とろめし定食」
昔、神保町に一膳めし屋があって、勤め先の先輩たちに連れられてよく行っていた。この店の名物は何といっても「麦とろめし定食」で、大ぶりのめし茶碗に盛った麦めしと、長芋のとろろを出汁でのばしたものが一緒に…
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完成まで4年 これまで描いた絵をまとめた画集ができた
これまで雑誌や単行本、広告などに描いた絵をまとめた画集ができた。はじめは300ページほどのつもりだったが、収録したい絵がだんだんと増えて、しまいに900ページになった。その分印刷代もかさみ、値段も高…
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寒い冬に恋しくなる 餡かけ飯店と自家製のたっぷり白菜煮
麻婆豆腐や中華丼のとろみのもとが水溶き片栗粉であると知ったのは、ずいぶん大人になってからで、30歳前後だったと思う。 台湾料理を出す一杯飲み屋のカウンターでママが麻婆豆腐を作るのを見ていて、…
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いつかと思いつつ10年以上…ようやくあげた“友達宣言”の杯
倉敷に蟲文庫という小さな本屋がある。この店の主の田中美穂さんは蘚苔類の研究者で、ある雑誌で田中さんが苔を大きな虫眼鏡でのぞいている姿を見たことがあるが、その横顔が魅力的だった。 その後、僕が…
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薪ストーブのある本屋にて 山の中では歯みがきさえ愉快だ
11月、山の紅葉がはじまる頃に、山口県の山の中の湯治場近くにある「ロバの本屋」へ行く。絵や絵付けをした皿を店に並べて個展をするためだ。 僕は湯治場に宿をとって、昼の間、店の番をしたら夕方から…
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夫婦で議論 ふんぎりがつくは「踏ん切り」か「糞ぎり」か
夕飯時に妻が、何の話だったか、「ようやく私、ふんぎりがついたのよ」と言った。それを聞いた僕が、「食事中にそんな汚い言葉を使うのはよせ」と顔をしかめると、妻はきょとんとして箸を止めた。 僕は「…
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たまたま家にあった具材で作った「辺境のチャンポン」の味
郷里の小倉ではチャンポン麺のことを「チャンポン玉」と呼ぶ。チャンポン玉は中華麺のように打ち粉をしておらず、つるつるしていて粉がスープに混ざって濁ることがないから、ひとつの鍋で具材と一緒に煮て調理する…