時代劇の中にタイムスリップしよう編
「悪道―五右衛門の復讐」森村誠一
森村誠一が描く悪道シリーズの最新作「悪道―五右衛門の復讐」(講談社 1700円+税)に登場する江戸の悪党どもは、いまどきはやりのサイバーテロの犯人のような無味無臭の透明人間ではなく、体臭がにおい立つような濃い人物ばかりである。
主役は将軍を護衛する伊賀忍者の末裔、流英次郎とその一統。だが彼らが守るのは、実は急逝した将軍の代役に据えられた影将軍だ。
ある日、その影将軍の、うなぎのかば焼きを食べたい(!)という、たっての願いで、市中のお忍びに同行したとき、面妖な事件に遭遇する。
武士の世界というのはけっこうシビアである。時代劇では浪人が貧乏長屋で傘張りをする場面などが出てくるが、傘張りどころか、大道芸人となって糊口をしのぐ者もいた。主家のお取り潰しなどで禄を失ったとたんにホームレスに近い存在になってしまうのだ。
そういう浪人の一人、ひと打ち10文で自分の体を叩かせていた叩かれ屋が、一見、商店の手代風の男に首をはねられた。混乱に乗じて姿を消した手代風の男は、役者の生島半六に似ていたという。