アメリカを夢見て日本を貶める愚
「超一極集中社会アメリカの暴走」小林由美著/新潮社/1500円+税
実に絶望的な本である。基本的には、富の集中と格差というか、むしろかつての「貴族と庶民」のような分類が世界中で生まれ、特にアメリカはその状況がすさまじいといった事情をシリコンバレー在住の著者が記した書である。
現在のアメリカの富の配分が「0.1%対その他」ないしは「0.01%対その他」になっているという状況を記し、さらには、いい大学に行き、その後の栄えある人生を送るには金持ちでなくてはいけない、といった事情も述べる。
〈エリート大学に進学するのは、学校の勉強・スポーツ・様々な課外活動やボランティア活動、そして似た境遇の友人達とのデートやパーティと、親の監督下で極めて忙しい生活をしてきた子供たちが中心です〉
〈因みにスタンフォード大学の今年度の授業料は1年間4万7000ドル(470万円)でそれに学生寮や教材、生活費などを加えると、1年間に必要な費用はおよそ7万ドル(700万円)です〉
こういった形で、もはやアメリカでは貧乏人はどうしようもない状況にあり、金持ちがより金持ちになっていく状況を記す。と考えると、日本でとかく、日本を貶めるために「アメリカでは~」と言う「出羽守」の言ってることが途端に胡散臭く見え始める。
「アメリカでは寄付が当たり前!」
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「金持ちの税金対策とワイロ的側面がある。貧乏人に寄付の余裕はない」
「アメリカでは自由闊達な教育がある」
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「いい大学に行くための詰め込み教育と親の根回しでいい推薦文を書いてもらう必要がある」
「アメリカでは頑張った者は報われる」
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「そこに行くには、前提として親が金持ちである必要がある」
「アメリカの大学生は熱心に勉強する」
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「親のカネで優雅な生活をしてるボンボンとローン地獄の学生が多いぞ」
日本人はグーグル、フェイスブック等のきらびやかなアメリカンドリームを見て「夢の国・アメリカ」を思い、日本でイノベーションが誕生しないことを嘆く。その一方、「ラストベルト」と呼ばれる工業が衰退したエリアの住民がやさぐれているさまも時に見る。両方が真実ながらも、我々は前者にばかり目を向け自らを貶める愚を、本書は教えてくれる。
よく分からないのが、あれだけ金持ちできらびやかで、庶民性皆無のトランプ一家をアメリカ人は選んだのか。ヒラリーよりはマシだったからか……。
★★★(選者・中川淳一郎)