日本を代表する名門企業だった東芝。その落魄ぶりは絶句に値する。「元凶」と目された元会長も死去して……。
「東芝の悲劇」大鹿靖明著
一体東芝はなぜこんなことになってしまったのか。本書はその真相を描く最新の経済ノンフィクション。印象に残るのは故西室泰三元会長の“社内カリスマ”ぶりだ。「お公家さん」と揶揄された社風で、傍流育ちがなぜのし上がれたのか。本書は全体の3分の1に当たる紙幅を割き、先祖までさかのぼって西室の生い立ちから慶大出身ゆえの東大コンプレックス、社長就任後も続いた社内主流派との暗闘、後継指名した西田厚聰元社長との因縁についても深く探る。
再三指摘されたこととはいえ西室の上昇志向と嫉妬心の強さには驚くが、西室が抜擢した西田はさらに名誉欲が強く、傍流の原発畑から社長にのし上がった佐々木則夫と暗闘を演ずることになる。
東芝の不正会計問題は2015年に露呈し、前代未聞の騒動になるが、このとき西室は既に日本郵政社長を経てゆうちょ銀行社長に就任していた。事なかれ主義から業績不振に陥り、抜擢された歴代の傍流出身者が専横をきわめ、安倍政権とよしみを通じる経産官僚との腐れ縁で崩壊に至ったのである。
(幻冬舎 1600円+税)
「粉飾決算VS会計基準」細野祐二著
著者は知る人ぞ知る「キャッツ株価操作事件」で有罪判決を受け、最高裁まで争ったものの上告棄却になった元公認会計士。その体験(検察による無理な「粉飾」立件)を専門の会計の立場からつづった著作がこの種の専門書としては異例のベストセラーになった。
そんな著者の最新著作にあたる本書の読みどころは巻末の4章にわたる東芝粉飾決算の解明。事件の経緯を微細にたどり、高額の「のれん代」が含まれていた米ウェスチングハウス(WH)買収の無理筋に始まり、11年の大震災で原発の未来がなくなってからもWH関連の一括減損をできなかった東芝の不手際に踏み込む。
近ごろの“東芝本”には珍しく人事問題などには目もくれず、不正操作の手口を正確に跡づける。多少の専門知識を必要とするが、東芝事件類書の中で出色の一冊。オリンパス事件など他の粉飾事件の分析も含む大冊で、この定価は安い。
(日経BP社 2400円+税)
「世界が喰いつくす日本経済」大村大次郎著
元国税調査官が読み解く東芝事件の真相。それは「アメリカが日本をハメた」という陰謀論。そもそも米名門WHの買収がいかに異常な高値とリスク含みのものだったかを検証。実は米国はもはや原発事業を見限っているが、国の都合ではなく建設側のミスを突いて中止させようとしている。現在米国で建設中の原発はすべてWH(つまり東芝)の事業なのだ。
後半では一転して日本側の姿勢を批判。国際収支の黒字ばかり積み上げようとする政府の近視眼を突く。日本に必要なのは「経済成長ではなく(自国内の)経済循環」と説いている。
(ビジネス社 1300円+税)