トランプ政権が誕生して、10カ月。しかしまだ混乱は収まらない。
「乱流のホワイトハウス」尾形聡彦著
朝日新聞の「機動特派員」としてホワイトハウスの「インナーサークル」とのコネを持つ著者。政府高官とサシで話のできる切れ者というわけで、日本人特派員では著者ひとりらしい。そんな著者が読み解くホワイトハウスの現在。トランプは6年前、オバマが臨席したホワイトハウス記者協会ディナーの招待客。その前にオバマの“出生疑惑”をさんざあおっていたことをその場でからかわれ、満座の中で笑いものになった。この恨みからトランプは出馬を決意、就任後は国民皆保険のオバマケアをはじめ環境政策のパリ協定離脱やイラン核合意破棄など、前政権の「遺産つぶし」に血道を上げているという。現在の米政治の大混乱の陰には「トランプVSオバマ」の暗闘があるというわけだ。
ホワイトハウスに常駐する身だけにスキの多いトランプに意外な人間くささも感じるという著者は、オバマの広島訪問やビンラディン殺害作戦の舞台裏を描き、現政権が起こす「分断」の実態を解き明かす。新聞記事とのすみ分けを意識した主観表現の多い文章はメリハリが利く。トランプと金正恩が過激な言葉でやりあう中、「圧力」を声高に主張する安倍政権は最悪のシナリオを描く現実主義が必要との主張も説得力あり。
(岩波書店 1900円+税)
「アメリカ大乱」吉野直也著
異例ずくめのトランプ政権だが、実は一番困惑なのは大統領本人か、という本書。著者は日経新聞で政治部20年、ワシントン駐在5年のベテラン。トランプの内心を「大統領になりたかった」が「やりたくはなかった」のだと分析する。米大統領ほど国内外で責任の重い存在はなく、不動産屋の放言オヤジというわけにはいかないからだ。共和党の指名受諾演説や大統領就任演説でも笑顔はなく「顔は蒼白だった」という。
選挙戦中のルポも交えて描くトランプ政治の現状。広大なアメリカは州によって住民の質が大きく違い、それが政治的分断の背景になる。コラムやインタビューも多数はさまれている。
(日経BP社 1700円+税)
「トランプ時代の日米新ルール」薮中三十二著
昨年の大統領選直後、安倍首相は即トランプ詣でを実行。その露骨な擦り寄りは関係者を不安がらせたが、今のところ日米関係は良好。
本書によれば首相は知識人のオバマ前大統領とは「ウマが合わない、呼吸が合わない」。APECの際にも日米首脳会談をセットするのさえ苦労した。
ところがトランプ政権になったとたん、就任わずか20日で首脳会談実現だから首相の得意顔も無理はない。しかし対中姿勢など百八十度転換するトランプ外交はポリシー抜きの不安定。政権の黒幕といわれたバノン前首席補佐官は今後5~10年以内に「必ず南シナ海で戦争になる」と明言している。こんな政権にポチよろしく擦り寄っていいのか?
元外務事務次官の著者は冷静な筆致の間でそこを恐れているようだ。
(PHP研究所 860円+税)