「地球星人」村田沙耶香著
「コンビニ人間」で芥川賞を受賞した作家の最新作。物語は主人公・奈月の少女時代から始まる。小学校5年生の夏休み、奈月は長野の山村にある祖父母の家を家族と訪れた。
お盆に大勢集まる親戚の中に、いとこの由宇がいる。2人は秘密を教え合った恋人同士。自分が魔法少女であることを打ち明けた奈月に、由宇は言った。「僕、もしかしたら宇宙人かもしれないんだ」。2人は針金で作った指輪を交換し、誰にも内緒で結婚する。そして約束する。「なにがあってもいきのびること」
おとぎ話のように始まった物語は、異世界に踏み込んでいく。地球星人が暮らしているのは人間を作る「工場」の中。そこにはぎっしりと人間の巣が並んでいる。恋は繁殖するために人間が作った脳内麻薬で、子宮は人間工場の部品。働いて、結婚して、繁殖するという社会のシステムに馴染めない自分は異星人。そう思ったまま大人になった奈月は、同じ違和感を持つ男と結婚する。恋もセックスもない共同生活。工場側の地球星人たちは、そんな仮面夫婦を許さない。現実にもこんな夫婦は多くいそうでリアル。
懐かしい山村に逃避した2人は、やはり生きにくさを抱えて大人になった由宇と再会、3人の間に奇妙な絆が生まれる。
山村に孤立した3人は、生き延びるために何をしたか。ホラーじみた驚愕の結末へと爆走する。
(新潮社 1600円+税)