「漂砂の塔」大沢在昌著
物語の舞台は、歯舞群島の中の島のひとつ・オボロ島。レアアース目当てにつくられた日中露合弁会社「オロテック」の関係者しかいない、そんな閉ざされた島の海辺で、赴任したばかりの日本人技術者が、両目をえぐり取られた死体となって発見された。島には国境警備隊しかおらず、事件の捜査は放置されたままになっていたが、ロシアが実効支配している島に日本の警察官が表立って捜査に行くこともできない。
そこで亡くなった社員の代わりの人員として警視庁の石上が潜り込むことに。
捜査権も、武器もなしで乗り込むことになった石上は、得意のロシア語を駆使して、元KGBの施設長、魅惑的な容貌の女医、ナイトクラブのボスなどと接触を図るが、捜査をしている最中にまるで警告であるかのように何者かに襲われる。果たして任務は遂行可能なのか。そして、事件の真相とは……。
直木賞、日本ミステリー文学大賞、吉川英治文学賞など、名だたる賞を総なめにしている大人気作家の最新作。離島という閉鎖空間のなかで、丸腰の主人公が危険にさらされながら謎をあばいていくストーリーに手に汗を握る。
(集英社 2000円+税)