「歪んだ波紋」塩田武士著
5つの短編からなる連作集。冒頭は「黒い依頼」。地方紙の中堅記者・沢村は、デスクからひき逃げ事件の犯行車両が被害者の遺族宅にあるとの情報を得たので調べるよう頼まれ、被害者宅に赴く。被害者の妻に車のことを質すが、強い怒りで否定される。妻の証言にウソはないと直感した沢村は、独自に調査するうちに自社の調査報道班の情報に疑問を抱く……。
続く「共犯者」は、元全国紙の新聞記者・相賀が自殺したかつての同僚・垣内の遺品整理をするところから始まる。残された取材ノートから、垣内が33年前に関わった事件を最後まで追っていたことを知る。しかもそれが最近起きたある女性の焼死事件と関わりがあることを突き止める……。
以下、法曹・警察・メディアの癒着を描く「ゼロの影」、テレビ界のセクハラでっち上げを扱った「Dの微笑」と続き、最後の表題作で、これまでの4つの短編が1つに収斂していく。
全編を貫くテーマは「誤報」。ネットニュースの登場で危機に瀕しているレガシー・メディアの内実を鋭く抉る、問題作。
(講談社 1550円+税)