「したたかな植物たち 春夏篇」多田多恵子著
春本番。街路や公園の植物が、一斉に目覚め、日増しに緑が濃くなっている。桜とともに春の到来を告げるタンポポは、多くの人にとって綿毛を飛ばした思い出とともに人生で一番最初にその名を覚えた植物のひとつだろう。しかし今、目にするタンポポのほとんどは、実は私たちが子供時代に咲いていたものとはまったくの「別人」の可能性が高いそうだ。
日本在来種のタンポポは、自然度の高い場所に生息し、都内の自生地は減っている。代わりに爆発的に増えたのがセイヨウタンポポなのだ。外見的な違いは、総苞と呼ばれる花の付け根の部分が反り返っているか、いないか(=在来種)の違いだけ。しかし、セイヨウタンポポのタネは在来種に比べ軽く遠くまで飛ぶなど、生態的な性質にはさまざまな違いがある。その最たるものは、雌しべの体細胞が受精という過程を経ずにそのまま種子になるという生物の基本を無視した「無融合生殖」にあるそうだ。
本書は、このような身の回りの植物たちの知られざる生き残り戦略を解説してくれるカラーハンドブック。
驚くべきは雑草のカタバミ。細胞内の水分量を調節して葉を開閉する「光センサー」や、人や動物の歩く振動を感知して作動する「タネ発射装置」、そして動物に食べられないよう「化学兵器」まで備えたハイテクの塊なのだとか。
他にも、自力で2メートル近くもタネを飛ばす一方で、タネにアリの好物である「脂肪酸」というおまけをつけてさらに遠くまで運ばせるスミレや、かつては薬草として重宝されたが、今は特有のニオイで敬遠されがちなドクダミのニオイ物質に含まれる抗菌抗カビ作用など。その意外な能力や底力に、路傍の植物を見る目が変わること間違いなし。
(筑摩書房 920円+税)