「街角の昭和遺産」河畑悠著
いよいよ平成の終わりが近づき、昭和はさらに遠くなりつつある。本書は、そんな昭和の時代には当たり前のようにあったが、いまやその姿を見ることがなくなったさまざまな職業=「絶滅危惧職」を取材したフォトルポルタージュ。
85歳の岩井靜さんは、この道60年という大ベテランの「野菜の行商人」。かつては千葉県から野菜などを担いで東京に売りに来る行商人のための専用列車まで走っていた時代があったが、行商仲間はもう誰もいないという。
早朝3時半に起き、前日に収穫した野菜やモチなどを持って、千葉県の自宅から1時間半かけて「通勤」。JR大塚駅北口ロータリーのわずかなスペースが彼女の店だ。
25歳で農家の嫁となり行商を始めた当初は、売り歩きをしていたが、社会の変化とともに次第に週に2回、朝の7時から10時まで開店する現在の形に落ち着いた。昔は100キロ近い荷物を担いでエレベーターやエスカレーターのない駅の階段を上り下りしており、今は遊んでいるようなものだと話す。
岩井さんと同年代の中村幸子さんは、JR新橋駅前で45年間営業を続ける路上の「靴磨き職人」。かつては新橋にも多くの靴磨き職人がいたが、いまは中村さんともう1人だけ。営業には警察の道路使用許可などが必要だが、新規の取得は難しく、文字通り絶滅が定められているのだ。
その他、85歳の内田菊治さんが仙台駅近くの路上で営む創業54年という「おでん屋台」や、賑やかに町を練り歩きクライアントの宣伝をする「ちんどん屋」夫婦、明治時代から5代続く江東区の老舗「質屋」三川屋質店など11職業を網羅。
消えていく職業とそれを生業とする人々への愛惜の思いを込めて取材された好企画。
(彩図社 1300円+税)