「銭湯図解」塩谷歩波著
町中の銭湯は、温泉と同様、日本が世界に誇る入浴文化だが、近年、加速度的に姿を消しつつある。本書は、銭湯を愛するあまり、東京・高円寺にある銭湯「小杉湯」に転職した著者が、お勧め銭湯を俯瞰図で紹介するビジュアルガイドだ。
かつて設計事務所で働いていた著者は、心身を病んで休職中、医師や友人に勧められ銭湯に通い、めきめきと回復。やがて銭湯が生きがいになるほどのめり込み、その魅力を伝えたいがために描き始めたのが銭湯図解だという。図解は、前職で培った技を生かし、銭湯の浴室や脱衣所の内部を斜め上からの視点で俯瞰的に描く「アイソメトリック」という建築図法によって描き起こされている。
初心者から玄人まで、それぞれが楽しめるよう24軒を選び、コース別にその魅力を紹介する。
初心者コースで取り上げられる東京・日暮里の「斉藤湯」は、2015年の建て替えを機に軟水を取り入れるなどお湯にこだわり抜いている。浴槽も高濃度炭酸泉や、ジェットバス、ミクロ単位の気泡が含まれたミルキーバスなど、6種類もあり、湯上がりにビールが飲めるバーカウンターまで備えている。
一方、押上にある「大黒湯」は、露天スペースが充実。銭湯とは思えない大露天風呂には、ウッドデッキが併設され、ハンモックでくつろげるようになっている。おまけにお湯は、天然温泉の井戸水を使用しており、まさに銭湯の料金で温泉気分まで味わえるのだ。
上級コースは、銭湯らしさを徹底的にそぎ落としたという銭湯建築のニューウエーブ、東京・練馬の「天然温泉 久松湯」や、多くの銭湯マニアイチ押しの三重・伊賀の「昭和レトロ銭湯 一乃湯」など個性派ぞろい。
安くて身近な「リゾート」へのお誘いだ。
(中央公論新社 1500円+税)