「お砂糖とスパイスと爆発的な何か」北村紗衣著

公開日: 更新日:

 書店の店頭でこの本を目にしたとき、タイトルに引かれた。これはイギリスの古い童話の歌詞、「女の子って何でできてるの? お砂糖とスパイスとあらゆるすてきなもので」からとったものだそうだ。でも、著者はこの「すてきなもの(nice)」に引っかかった。私たちは別にナイスなものではできていないし、ナイスになる必要なんてないんだ――そういう意味が込められているという。本書は、従来の男性中心的な社会の中でつくられたテクストを男性中心的な視点で読むという批評スタイルに対して、フェミニズムの立場からテクストを読んでいくものだが、タイトルにもそれが応用されているわけである。

 たとえばディズニーのアニメ「シンデレラ」。おとなしく受動的なヒロイン像、結婚が女性の幸せのすべてであるかのような展開……。こうしたお姫様ファンタジーに仕立てられる以前は、もっと能動的な主人公が登場する物語が世界各地で流通していて、それらの牙を抜いたものがディズニー・アニメだとする。一見自由を訴えているかに思える「アナと雪の女王」も、多様なクリエーティビティーを社会的役割の中に押し込める方向に向いていることを論証していく。

 その他、アガサ・クリスティのミス・マープル・シリーズに出てくるレズビアンの描写や、カズオ・イシグロの「わたしを離さないで」の「マダム」とエミリ先生との同性愛を指摘し、それぞれの作品の深層へいざなう。

 著者の筆致は極めて軽やかで、扱われる題材も映画、古典(著者の専門はシェークスピア)、ミステリー、SF、アニメと幅広い。フェミニズムという視点を入れ込むことで、同じ作品がこれまでとはまったく違った広々としたフィールドに置かれていく。知的興奮に満ち満ちた快著。 <狸>

(書肆侃侃房 1500円+税)

最新のBOOKS記事

日刊ゲンダイDIGITALを読もう!

  • アクセスランキング

  • 週間

  1. 1

    広島新井監督がブチギレた阪神藤川監督の“無思慮”…視線合わせて握手も遺恨は消えず

  2. 2

    ヤクルト村上宗隆「メジャー430億円契約報道」の笑止…せいぜい「5分の1程度」と専門家

  3. 3

    1年ぶりNHKレギュラー復活「ブラタモリ」が好調も…心配な観光番組化、案内役とのやり取りにも無理が

  4. 4

    回復しない日本人の海外旅行…出入国数はGWもふるわず、コロナ禍前の半分に

  5. 5

    故・川田亜子さんトラブル判明した「謎の最期」から16年…TBS安住紳一郎アナが“あの曲”を再び

  1. 6

    「リースバック」で騙される高齢者続出の深刻…家を追い出されるケースも

  2. 7

    眞子さん極秘出産で小室圭さんついにパパに…秋篠宮ご夫妻に初孫誕生で注目される「第一子の性別」

  3. 8

    田中圭にくすぶり続ける「離婚危機」の噂…妻さくらの“監視下”で6月も舞台にドラマと主演が続くが

  4. 9

    千葉工大が近大を抑えて全国トップに 「志願者数増加」人気大学ランキング50

  5. 10

    三山凌輝活動休止への遅すぎた対応…SKY-HIがJYパークになれない理由