「親子で楽しむ和算の図鑑」谷津綱一著
江戸時代の和算は、世界的にもかなり高度なレベルに達していたといわれている。伊能忠敬が精密な日本図を作成できたのも、算聖といわれた関孝和の流派、関流のメンバーたちの数学的な支援があってのことだといわれている。とはいえ、現在のような算数字や方程式を用いずに、どうやって三角測量のような複雑な計算をしていたのか。そんな疑問を解決するのにうってつけなのが本書だ。
本書には、江戸時代に実際に使われていた算術書から多くの問題が出題されている。例えば「布が150反あります。布1反の値段が銀7匁5分のとき、布代は合わせていくらでしょうか」といった具合。反、匁? そう、和算の世界に入るには江戸時代に使われていたお金の単位や度量衡の表し方などを知らなければならない。ということで、本書は数字の表記の仕方から始まり、複雑な貨幣の換算法、不定時法の時刻の数え方などを図解で分かりやすく説明する。
和算でも最初に学ぶのはかけ算の九九だが、いまではすっかり廃れてしまった割り算の九九も紹介されているが、これはソロバンが基本なので、今の人間には分かりにくい。いよいよ実践編になるが、主に用いられるのは比と割合、そして、鶴亀算でお馴染みの面積図を使った算法だ。江戸と京都を同時に出発した1日で歩く距離の違う飛脚がどの辺で出会うかという「交会術(旅人算)」もそれで解かれる。こうした文章題を見ても、各地でまちまちだった度量衡や貨幣が統一され、流通も盛んになった江戸の人々にとって、和算が極めて現実的な学問だったことが分かる。
「親子で楽しむ」と銘打たれているが、内容はかなり高度。下手なパズルより、よほどいい頭の体操になる。時代小説の格好な副読本ともなるだろう。 <狸>
(技術評論社 2680円+税)