人間は心臓病になるように進化をと遂げた!?
生物の進化とは“よりよいもの”になる変化だと思われがちだが、私たちと進化の利害関係は必ずしも一致しない。例えば、突然死の原因にもなる狭心症や心筋梗塞は、進化によってもたらされたものだと言えるのだ。
更科功著「残酷な進化論」(NHK出版 800円+税)では、「絶滅の人類史」などの著書を持つ分子古生物学者が、人体をテーマに誤解されがちな進化の本質を解説している。
私たちの心臓は4つの部屋に分かれ、肺には低い圧力で、全身には高い圧力で血液を送り出すことを可能にしている。これは、魚から進化したのち気体から液体(血液)に酸素を取り込むことが必要になったこと、そして体が上下に長くなったことに関係している。
しかし、心臓の右側2つの部屋には酸素の少ない血液が全身から流れてくるため、心臓自身の細胞は常に酸欠状態になる。そこで、外側に冠状動脈という血管を張り巡らせ、酸素を吸収できるように進化した。ところが、心臓が収縮すると冠状動脈も押しつぶされ、酸素が得られにくい構造にもなっている。そのため狭心症なども起こしやすく、進化の設計ミスだといわれることもあるという。
しかし、それはあくまでもヒトの側から見た意見に過ぎないと著者。自然淘汰という進化のメカニズムは、子どもをより多く残せる形質(を持つ個体)を増やすことを目的としている。つまり、若くて子どもをつくれる間だけしっかりと働けばそれでよく、心臓が酷使されて狭心症などが起きても、生殖年齢を過ぎていれば自然淘汰は一切関知しないというわけだ。
腰痛や難産、死についても進化の切り口でひもとく本書。人間は特別ではなく、不完全な一生物であることも教えられる。