「火山と生きる海鳥」寺沢孝毅著
自然写真家の著者は、ある日、火山活動でできた島の外輪山に囲まれたクレーター湾を飛び交うエトロフウミスズメの大群の動画に目がクギ付けになる。海上に舞い降りて浮かぶエトロフウミスズメの群れの中に、シラヒゲウミスズメの姿があったからだ。目の上下と後ろにピンと伸びる白い飾り羽と、艶やかな真っ赤なくちばしというあまりに芸術的なその風貌を、かつて図鑑で見て以来、この海鳥が頭から離れたことがなかったのだ。
撮影された動画は、ネーチャークルーズの可能性を探るために千島列島を試験航行した際に撮影されたものだった。氏は、この幻の海鳥に合うために自ら探検クルーズを計画、昨年6月に決行する。
本書は、その旅で出合った海鳥や海獣たちを撮影したドキュメンタリー風のネーチャー写真集である。
昨年の6月17日、日本人探検隊13人はロシア船に乗り込みカムチャツカ半島の港を出港。目的地はシラヒゲウミスズメが撮影された千島列島のウシシル島と、海鳥の大繁殖地とされるがそれ以上の情報がない活火山チリンコタン島だ。
途中、悪天候による停滞を余儀なくされ、出港から4日後の夕方、ようやく船はカムチャツカ半島と北海道の間を点々とつなぐ千島列島の中間からやや半島寄りに位置するウシシル島に到着。さっそく、ゴムボートに乗り換えて上陸するが、島は静寂に包まれ、ウミスズメ類の気配がない。
いったん、湾の外に出て待っていると、島から少し離れた水面に小さな鳥が集まり始めた。エトロフウミスズメの群れだ。その群れに交じって、念願のシラヒゲウミスズメの姿もあった。群れは刻々と大きくなり、やがて100万羽を超え、その中の一群が飛び立つと、外輪山の切れ目からクレーター湾へと一斉に向かいはじめた。帰巣だ。
静寂だった湾内にごう音となって響き渡る鳥たちの羽音と鳴き声が写真からも聞こえてきそうだ。
一方、求愛のシーズンを迎えたシラヒゲウミスズメは、飾り羽がより派手になり、くちばしの色彩も図鑑で見るよりも鮮やかだ。
翌日の夕方、ウシシル島での観察撮影を終えた探検隊に、次に立ち寄る予定のライコケ島で大噴火が起きたと日本から知らせが入る。同島はフルマカモメとトドの千島列島最大級の繁殖地だった。
確認に向かうと、島の全域が火山灰で覆いつくされ、時折、火砕流が煙を立てて急斜面を滑り落ちていく。
海上には、九死に一生を得たフルマカモメたちに交じって、火山灰を浴びて衰弱したシラヒゲウミスズメの姿もあった。一方で、噴火が続く島の岩棚ではハシブトウミガラスが必死に命をつなごうとしており、そのけなげな姿に涙がにじむ。
さらに船は、前回の噴火から2年が経ったチリンコタン島へと進む。
オホーツクの海に並ぶ千島列島の知られざる豊かな自然を伝える迫真の写真集。
(メディアパル 3200円+税)