「テツヤ85歳、孫の服を着てみたら思ったよりイケてた。」シルバーテツヤ、クドウナオヤ著
昨年、秋田の田舎町で余生を楽しんでいた85歳のおじいちゃんが、ツイッターにあげられた4枚の写真をきっかけに一夜にして世界中が注目するファッションアイコン「シルバーテツヤ」へと生まれ変わった。その写真は、ファッション好きの孫・ナオヤ氏が着なくなった大量の洋服を古着屋で処分する前に「どうせ売るんだったら、売る前に実家のじいちゃんに着せてみるか」との思いつきで撮影したものだった。
本書は、そうしてゴールデンウイークを利用して数年ぶりに帰省したナオヤ氏に言われるまま、孫の衣装を着てポーズをとった祖父テツヤ氏の「ファッション」写真集。
丹前を着てくつろぐ普段のテツヤ氏は、好々爺然としており、どこにでもいる日本のおじいちゃんそのもの。しかし、ストリートブランド「Off―White」の上下レザーを身に着け、先祖代々の仏壇の前に立ったとたんに印象が一変する。
年寄りが若者の服を着るギャップを狙ってファインダーをのぞいたナオヤ氏の予想を大きく裏切り、思わず「モードやないかい」と漏らすほど。
「ちょっと曲がった腰は『こなれ感』を、この年代の人たち特有のカメラを向けられるとかしこまってしまう表情、刻まれたシワが、若い人には出せない『アンニュイさ』」を醸し出していたのだ。
撮影に慣れてきた祖父は「あの椿の前で撮ろう。あれはナオヤが生まれたときに植えた木だから」などと提案。孫は見慣れた木が自分の誕生に関係があったことを初めて知る。
以後、テツヤ氏は少々とんがったファッションを次々と鮮やかに着こなし、近所の白瀑神社や実家の裏の海岸にも足を運び撮影が行われる。その折々に、小さい頃、神社のこま犬にまたがって大人に怒られたことがあるなどと、祖父の口から昔話や故郷の変化が語られる。日本海に沈む夕日を眺めるワンショットが、祖父のお気に入りの一枚となった。
年寄りの朝は早い。まだカメラマンが寝ているうちにモデルは畑作業を終えており、朝7時、ふくらはぎにシップを貼ったその足にマルジェラの足袋ブーツを履き、ヤンマーの耕運機を回すところから2日目の撮影がはじまる。
チェーンやサングラスも難なくおしゃれに身に着けるシルバーテツヤが、若い頃は理科の教師で、その後校長、町の教育長を務め、生徒たちの服装指導にも人一倍厳しかったと知ると思わずニヤリ。
写真はマルジェラの公式アカウントなどにもシェアされ、ついには原宿で個展まで催される。
ドキュメンタリーのように撮影の様子から、SNS上での盛り上がり、そして個展開催にいたるまでの経緯を追いながら、20パターンの衣装を着たテツヤ氏の写真を紹介。
その写真から立ち上ってくる、何よりも衒いもなく孫の依頼にこたえる祖父と、気負いもなく祖父に接する孫の関係がほほ笑ましく、うらやましい。
(KADOKAWA 1400円+税)