「東京旧庭」櫛引典久著

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 東京都が管理する都立庭園の公式フォトグラファーとして多くのプロモーション写真の撮影を担当してきた著者による写真集だ。都会のオアシスとして都民をはじめ、多くの来訪者に親しまれている都立庭園の魅力を伝える。

 中央区にある「浜離宮恩賜庭園」は、江戸時代に江戸城の「出城」としての機能を果たしていた徳川将軍家の庭園で、1654(承応3)年、徳川将軍家の鷹狩場に4代将軍家綱の弟で甲府宰相だった綱重が、海を埋め立てて「甲府浜屋敷」と呼ばれる別邸を建てたのが始まり。その後、屋敷は将軍家の別邸となり、歴代将軍によって造園と改修工事が繰り返され、11代家斉の時代にほぼ現在の姿の庭園が完成したという。

 東京湾から海水を引き入れ、潮の干満によって池の趣を変える「潮入の池」の周りには、将軍の鷹狩りの際に休憩所として利用された「鷹の御茶屋」など、往時をしのばせる建物が復元されている。

 その他にも、国内に5カ所しか残っていない「鴨場」や、6代将軍家宣が庭園を改修した際にその功績をたたえて植えられたと伝えられる「三百年の松」をはじめ、コスモスやハナショウブなど季節を彩る花畑まで、見どころは満載。周囲を取り囲む高層ビルとのコントラストも一興だ。

 文京区の「小石川後楽園」は、1629(寛永6)年に水戸徳川家の祖・頼房が中屋敷として造ったもので、2代藩主光圀の代に完成した庭園。琵琶湖の景観を表現した池を中心に海・山・川・田園の景観を連続して堪能できる回遊式築山泉水庭園になっている。

 日本最古の石造アーチ橋のひとつ「円月橋」や「白糸の滝」(写真②)、カキツバタ田に架かる橋から眺める「藤棚」など、都会のど真ん中にいることを忘れてしまうような散歩が楽しめる。

 台東区にある「旧岩崎邸庭園」は、1896(明治29)年に岩崎弥太郎の長男で三菱第3代社長久弥の本邸として造られた。当時は1万5000坪の敷地に20棟もの建物が並んでいたが、現存するのは洋館・撞球室・和館大広間の3棟で、庭園も建物同様に和洋並置式で洋式の庭は芝庭を持つ近代庭園の初期のスタイルを今に伝える。

 他にも、毎年桜の季節に園内がライトアップされる「六義園」(文京区)の夜景や、江戸時代の骨董商が交遊のあった文人墨客の協力を得て、その名のごとく草木観賞を中心とした花園として開園した「向島百花園」(墨田区)、国分寺崖線から浸出する湧き水と雑木林の風致を生かして造られた近代的な別荘庭園「殿ケ谷戸庭園」(国分寺市)、そしてあの豪商紀伊國屋文左衛門の屋敷跡と伝えられる「清澄庭園」(江東区)まで、都立庭園全9庭を網羅。

 水面に満開の桜が映える池や、踏み石を彩る紅葉の落葉など、季節ごとの見どころを撮影した写真で、部屋にいながらにして各庭の四季が楽しめる。

 自粛が解けても油断は禁物。「3密」が避けられる庭園散歩は、格好のお出かけ先になるのでは。(玄光社 2000円+税)

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