「民主主義とは何か?」宇野重規著/講談社現代新書
宇野重規氏(東京大学大学院教授)は、日本学術会議の会員に推薦されていたにもかかわらず、菅義偉首相によって任命を拒否された6人に含まれていたために脚光を浴びた学者だ。政府の政策に批判的見解を表明したこともあるが、論壇では保守系と見られていただけに今回の任命拒否には違和感を覚える人が少なからずいる。
宇野氏は、独裁と民主主義を比較してこう述べる。
<短期的にみれば、独裁的手法が効果をもつことは十分にありえます。しかしながら、政治システム全体が長期的に発展するためには、民主主義の方がはるかに有効です。/その理由の第一は、民主主義が政治参加の機会拡大により人々の当事者意識を高め、そのエネルギーを引き出すということです。独裁体制の下では、人々は受動的になり、すべてを権力者に依存することになります。そのような仕組みが長期的に持続可能とは思われません>
コロナ禍では、迅速な意思決定が求められる。その結果、行政府が司法府、立法府に対して優位に立つ。行政官は、緊急事態において国会や裁判所で国家の意思決定について討議に時間を費やすことが国民の利益にならないと考えている。行政府の優位が更に強まると独裁に傾く。一見、効率的に見える独裁であっても国民の主体的なエネルギーを引き出すことが出来ないので、中長期的に国家を弱体化させることになる。
同時に重要なのは、独裁においては多様性が失われることだ。
<第二に、民主主義は多様性を許容する政治システムです。その前提にあるのは、政治や社会の問題についてつねに唯一の答えがあるわけではなく、多様なアイディアに基づく試行錯誤が不可欠であるという考えです。民主主義はしばしば誤った決定を下しますが、それを自己修正し、状況を立て直す能力をもつのも民主主義です>
独裁は、正しい思想や政策が国民を拘束することになる。そのような社会は、多元性と寛容を欠くので、人々は権力との摩擦を避け、思っていても言いたいことを言わなくなる。そのうち考えること自体が面倒になり、すべてを政府に委ねるようになる。日本がこうなってほしくない。
★★★(選者・佐藤優)
(2020年11月20日脱稿)