「国対委員長」辻元清美著/集英社新書
これは裏方の立憲民主党国会対策委員長としての活動録だが、辻元にはやはり表舞台での質問こそがふさわしい。
2015年に安全保障法制という名の戦争法が問題となった。これは憲法違反だと9割の憲法学者が主張していた。
衆議院の予算委員会で辻元は、官房長官だった菅義偉が会見で「合憲だとする憲法学者もたくさんいる」と言ったことについて、「『安保法制は合憲である』と言っている憲法学者の名前は?」と尋ねた。すると菅は3人の名前しか挙げられなかったのである。
それでも未練がましく、「数じゃないと思いますよ。これはやはり、私たちは、最高裁、まさに憲法の番人は最高裁でありますから」と意味不明の強弁をした。
菅はまた、「大事なのは、憲法学者はどの方が多数派だとか少数派だとか、そういうことではない」とも答弁している。これを、日本学術会議の任命拒否問題、さらには窃盗罪で東洋大学教授をクビになった高橋洋一を内閣官房参与にした一件と重ねてみると、菅の正体がよく見える。
要するに、政府に批判的な学者は排除し、利用できる学者もどきは、たとえドロボーであっても抜擢するのである。素行より思想を問題にするのだ。この対比を辻元にぜひ質問してもらいたい。
国対委員長として辻元がどんな苦労をしたか。それがこの本で詳細に語られているのだが、自民党の劣化が深刻化して、そもそもの国会のイロハを知らないために、そのイロハのところから辻元はがんばらなければならなかった。
たとえば2017年秋、加計学園問題などでの疑惑の追及を避けるため、自民党は議席数に応じて与党への質問時間を増やすよう要求した。民主党政権の時には、野党だった自民党などの要求によって「与党2、野党8」となっていたのに、「与野党5対5にしない限り、予算委の閉会中審査に応じない」と主張し、官房長官の菅も「議席数に応じるのは国民からすればもっともだ」と会見で後押しする始末。これには自民党国対委員長、森山裕の派閥の顧問、山崎拓も呆れて、「国会の長い歴史の中で、与党に質問時間を半分よこせ、などという話は一度もなかった。安倍総理はよっぽど疑惑を追及されるのが嫌なのか、自信がないのか。総理大臣として野党の質問を堂々と受けて立たなければ」と言ったという。 ★★★(選者・佐高信)