「星落ちて、なお」澤田瞳子著
体調を崩していた河鍋暁斎が死んだ。弟子の酒問屋の8代目、鹿島清兵衛が商いを放り出して駆けつけ、葬儀を取り仕切ってくれた。暁斎の娘のとよは、喪主を務めた兄の周三郎が途中からいなくなったことを知り、兄の家に向かう。母を亡くして養子に出された周三郎は、17歳で養子先から戻り暁斎に弟子入りしたが、暁斎の奔放さを受け継いでいた。それは、とよにはない才能だった。
周三郎は家で「袖香炉遊女図」を描いていた。美人図はとよが描くはずだったのに、客に催促されたからと周三郎は言う。「あたしなら、こうは描かないよ」と、とよは言った。
己の描くべき絵と向き合う絵師のきょうだいの葛藤を描く。
(文藝春秋 1925円)