「ランチ酒 今日もまんぷく」原田ひ香著
本書のヒロイン、犬森祥子の職業は変わっている。「見守り屋」なのだ。聞き慣れない職業だが、ようするに、ワケあり客のそばで寝ずの番をする仕事。「中野お助け本舗」の社長亀山から、その仕事はまわってくる。亀山は「働くな、動くな、見守るだけ」と言う。客が部屋の片付けをしていると、祥子はつい手伝ってしまうからだ。
「働くほうが安易なんだよ。そこでじっと何もしない方が高度なの。そして、そのために俺らは呼ばれているの。働く方が正しいなんて思うな」
というわけで、祥子の仕事はいつも朝か昼前に終わる。あとは部屋に帰って寝るだけなので、必ずランチを食べながら飲むことになる。
本書はシリーズ第3弾だが、蒲田の餃子から末広町の白いオムライスまで、おそらくすべて実在の店と思われるが、次々に紹介されていく。ヒロイン祥子の、ランチを選ぶ基準ははっきりしている。酒に合うか合わないか。だから必ず、その料理に合う酒が紹介される。これが本書のキモ。
それにしても、ホントにおいしそうだ。読んでいるだけで、とても幸せな気分になる。これ、作者が実際に食べているのではないかと思われるほど、食事シーンにはリアリティーがあふれている。口の中に、その香りと匂いと感触が、複雑な味となっていっぱいにひろがるのだ。広島の鉄板焼き屋で食べる「うにクレソン」が特においしそうだ。
(祥伝社 1650円)