北上次郎のこれが面白極上本だ!
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「猿と人間」増田俊也著
動物パニック小説である。襲ってくるのは猿だ。日本猿はかなり大きな雄でも体重は30キロ程度。犬でいえば、ラブラドルレトリバーくらいのサイズだというから、ヒグマに比べればかなり小さい。 どうして…
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「青の刀匠」天沢夏月著
火事でヤケドを負った高校2年生のコテツが島根に住む遠縁の老女剱田かがりの家にやっかいになるところから始まる物語だ。 問題は、この剱田かがりが日本で唯一の女性刀鍛冶であること。そして学校に行く…
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「ひどい民話を語る会」京極夏彦・多田克己・村上健司・黒史郎著
昔話の研究は、柳田国男の時代から続いているが、その柳田国男もボツにした話も多いという。それはウケ狙いで作ったようなものは採用しないということらしい。「柳田国男未採択昔話聚稿」という本まであるというか…
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「光のとこにいてね」 一穂ミチ著
ゆずとかのんが知り合ったのは7歳のときだ。シャベルを取りに部屋に戻るとき、かのんは言った。 「そこの、光のとこにいてね」 ゆずの立っているところだけぽっかりと雲が晴れ、小さな日だまりが…
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「尚、赫々(かくかく)たれ 立花宗茂残照」羽鳥好之著
立花宗茂という武将がいる。筑後国柳河藩初代藩主。関ケ原の戦いで改易後、大名として復帰した武将は他にもいるが、旧領を回復した武将は、この立花宗茂ただ一人である。 本書は、その立花宗茂の半生を描…
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「やっかいな食卓」 御木本あかり著
義母が1人で暮らしている夫の実家で、不登校ぎみの小学生の息子・旬を連れて同居することになったユキと、その義母・凛子。このふたりの語り手が物語を進行していく。 こうなると、嫁姑の戦いが始まるの…
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「タクジョ! みんなのみち」小野寺史宜著
永江哲巳はタクシー会社の採用課に勤務している。入社4年目だ。同じ課の2歳上の先輩鬼塚珠恵を「飲みに行きませんか」と誘うくだりが3番目の短編「六月十六日の大井町 永江哲巳」に出てくる。その飲みの席で「…
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「このやさしき大地」 ウィリアム・ケント・クルーガー著 宇佐川晶子訳
少年少女4人の、ひと夏の冒険を描くロードノベルである。とはいっても、けっして牧歌的な話ではない。 というのは、彼らが逃げてきたのが、ネーティブアメリカンの児童を集めた教護院だからだ。院長をは…
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「私たちは25歳で死んでしまう」砂川雨路著
人類の平均寿命が25歳になった時代の話である。平均値であるから、30歳まで生きる人もいれば、20歳で死んでしまう人もいる。事の起こりは500年前、隕石に付着していた未知の細菌のためにこの星の人口はそ…
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「神楽坂スパイス・ボックス」長月天音著
スパイス料理専門店をオープンした姉妹の奮闘の日々を描く連作小説だ。スパイス料理とはいっても、カレー専門店ではない。もちろん、タイのグリーンカレーもあるが、クミンや黒コショウを使った野菜スープから、タ…
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「帰ってきたお父ちゃん」水島かおり著
すさまじい小説だ。 娘が父親の頭の上からビールの大ジョッキをぶちまければ、母と娘がグーで殴り合い、相手を庭に放り投げる。もうめちゃくちゃである。 夫婦喧嘩もしょっちゅうだが、娘VS母…
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「豪球復活」 河合莞爾著
タイトルからわかるように、野球小説である。50年に1人の逸材と言われた天才的ピッチャー矢神がアメリカで失踪して半年。東京ティーレックスの同僚・沢本が、オアフ島でホームレスになっていた矢神を発見する。…
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「ロスト・スピーシーズ」 下村敦史著
アマゾンを舞台にした物語だ。がんの特効薬になる幻の植物「奇跡の百合」を見つけるために、探検隊が組織される。リーダーは、アメリカの製薬会社のクリフォード。メンバーはまず、ボディーガード役のロドリゲス(…
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「素数とバレーボール」平岡陽明著
41歳の誕生日に、高校のバレーボール部でチームメートだったガンプ君からメールがくる。ガンプ君は、人に会うと「誕生日と住所、それに身長と高跳びの記録を教えてくれないか」と声をかけ、たとえば北浜慎介が「…
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「魔術師の匣」(上・下) カミラ・レックバリ、ヘンリック・フェキセウス著 富山クラーソン陽子訳
カミラ・レックバリは、「氷姫」をはじめとするエリカ&パトリック事件簿で知られているが(このシリーズはわが国でもこれまでに10作が翻訳されている)、そのスウェーデンミステリーの女王が新たな共著者と組ん…
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「ぼくらに嘘がひとつだけ」綾崎隼著
将棋小説である。いろいろと読みどころの多い小説だが、ここでは長瀬厚仁の若き日を描くパートを取り上げておきたい。 厚仁が史上最年少の高校1年生として三段リーグに挑戦したとき、年上の親友である国…
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「汝、星のごとく」 凪良ゆう著
瀬戸内の島の高校で知り合った男女が恋に落ちるところから始まり、卒業後に夢をめざして東京に行った男と、島に残った女の遠距離恋愛が始まっていく。こういう初恋物語はこれまでにたくさん書かれ、たくさん読んで…
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「やっと訪れた春に」青山文平著
青山文平は、異色の時代小説作家である。なぜ異色かというと、いつも何を始めるか、わからないからである。時代小説の場合、妙な言い方を許してもらえるなら、もう少し物語が安定しているケースが少なくないのだが…
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「プリンシパル」長浦京著
すごいなあ。読み始めたらやめられない。迫力満点のやくざ小説だ。第2次大戦直後の東京を舞台に、4代目水嶽本家の一人娘、綾女の波乱の半生を描く長編である。 綾女が水嶽本家を継ぐことになったことに…
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「ただいま、お酒は出せません!」長月天音著
新宿の駅ビルに入っているイタリアンレストランで働く鈴木六花が、「明日から店は休業です」と通達されるところから始まる物語。新型コロナ感染症は3年目に入っても依然収束の気配を見せないが、その間いかに大変…