「血の葬送曲」 ベン・クリード著 村山美雪訳
いやあ、すごいなあ。読みはじめたらやめられない傑作だ。翻訳ミステリーの読者でよかった、と思うのはこんなときである。
1951年のレニングラードが舞台の長編だから、トム・ロブ・スミス著「チャイルド44」を連想する方もいるかもしれないが、まさしくその通り。あれも傑作であったが、本書も負けていない。
レニングラードから50キロも離れた町で5人の死体が発見されるのが冒頭。ロッセルをはじめとする第17分署の面々がその町まで捜査に赴くのは、現地警察の署員がほぼ全員MGB(国家保安省)に逮捕されてしまったからだ。疑わしくは罰せず、ではなく、疑わしくなくても逮捕、なのである。そういう密告社会の中で、真実を追求するのだから、ロッセル警部補の苦労は並大抵ではない。
さらに、物語の構成も巧みで、発見される5人の死体がまず異常。顔の皮膚をはぎ取られ、奇妙な衣装をつけられて、線路の上に整然と並べられている意味がわからない。犯人の動機はいったい何なのか。この魅力的な謎から始めるのがうまいが、その意味が判明するくだりでは思わず呆然。何なんだこれ!
音楽をモチーフにしているので、「チャイルド44」とはまた違った味わいがあるが、この作者、本書がデビュー作。今秋には本書の続編が刊行予定というから、それもぜひ翻訳してほしい。楽しみな作家がまた一人増えたのである。
(KADOKAWA 1100円)