「世界の美しい民藝」 巧藝舎著
“著者”は横浜に店を構える民芸店。長年、世界各地で、その地の人々の手仕事から生まれ、愛用されてきた品々を輸入し、販売してきた。日本の民芸運動に携わる人々も顧客に名を連ねる同店のコレクションを紹介するビジュアルブックだ。
まずは、中南米の人々の手仕事から紹介。
メキシコの工芸の宝庫といわれる南部オアハカ州のコヨテペック村では、ハバ・ネグロと呼ばれる黒い陶器が盛んに作られてきた。表面の黒い輝きは、粘土に含まれる酸化鉛と、焼く前に数日間、表面を瑪瑙石で磨くことによって生み出されるという。
女神や馬、鹿などの置物から、鍋や水入れ、オアハカ名物のメスカル(酒)の容器などの日用品まで、さまざまなものがある。そのひとつ「クロスベル」は、名前通りに十字形をしたその中央の穴に棒を通して、指先で押し回すと、金属製に近い乾いた響きを奏でる。玄関チャイムがない時代に家の呼び鈴として使われた品だという。
アマゾン川上流、ペルーのウルバンバ川流域に集落をつくるピーロ族が発酵酒や水を貯蔵する壺には、独特の幾何文様が描きこまれている。陶器だけでなく、布や人体にも施されるこの文様は、幻覚剤アヤワスカを飲んだ時に見える幻覚だそうだ。
他にも、夏至の日に行われるインカ最大の祭りインティライミで使われるエクアドルの悪魔の仮面「ディアブロ」や、カリブ海に浮かぶパナマのサンブラス諸島に暮らすクナ族の布「モラ」など、今も彼らの暮らしの中で使われる日用品から、祭事に用いられてきた大切な品々まで。日本では決して生まれてこないであろう色使いや独創的なデザインながら、どこか懐かしさや優しさを感じ、心が温まる品々に魅せられる。
アフリカではSFアニメのキャラクターのようなナイジェリアのチャンバ族やマリのドゴン族の仮面をはじめ祖先を祭る祭礼などに用いられる立像、安産や子孫繁栄を願った人形、そしてコートジボワールのセヌフォ族による朴訥な腰掛けや、現在のコンゴ民主共和国にかつてあった、クバ王国に属していたさまざまな民族が身につけていた衣装などの品々が並ぶ。
約30年前に入手したヤギの毛の糸を織って作ったエチオピアの敷物は、入荷時に大変な臭いと汚れを放っていたという。当時、内戦や飢餓で国内が大変な状況にあり、財力を持った人たちがお金になるものを手放したために、これらのマットが入ってきた。しかし、精練されていないヤギの糸を紡いだマットは木の実や糞などが混ざったままで、クリーニングに出すこともできず、スタッフで何度も手洗いして汚れと臭いをとったという。
それぞれの品にまつわるそうしたエピソードや買い付けに訪問した折の各国の街中のスナップ写真なども添えながら、中南米、アフリカ、アジア各国から厳選して日本に持ち帰った320の品を紹介。
これらの品々が、日常に潤いをもたらしてくれる民芸の魅力を再発見させてくれる。
(グラフィック社 3630円)